言語学から見た未然形
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/06 10:24 UTC 版)
形態論から見ると、日本語の動詞は子音語幹動詞と母音語幹動詞に分けられる。四段動詞をローマ字分析すれば、kak|anai・kak|imasu・kak|u…のように変化していないのはkなどの子音の部分までであることが分かる。この語の変化していない部分は語幹と呼ばれ、附属しているものは語尾と呼ばれるが、四段動詞は語幹が子音で終わるので子音語幹動詞である。なおこの基準からすれば、ラ行変格活用・ナ行変格活用動詞も子音語幹動詞であり、特定の語尾がつくときに不規則な語形をもつのみである。一方、一段動詞や二段動詞は語幹が母音で終わる母音語幹動詞である。ただし、文語において語幹母音は母音交替を起こして2通りの語形をもっているが、現代口語においては母音交替は起きず語幹は一定である。例えば「起きる」はoki|nai、oki|masu、oki|ru、oki|reba…、「食べる」はtabe|nai、tabe|masu、tabe|ru、tabe|rebaのようにeかiまでが語幹である。ちなみにサ行変格活用やカ行変格活用とされる「す(する)」「く(くる)」はこういった規則に合わない語形変化をするので不規則動詞に分類される。 このように見ると、いままで未然形としてまとめられていたものは以下の2通りの方法によって形成されていることが分かる。一つには子音語幹動詞と子音から始まる語尾をつける場合に子音の連続を避けるために母音が挿入されるもので、「ない」や「ず」「む」といった語尾が付くときには、つなぎに/a/が挿入されることによってア段音となるのである。もう一つには母音/a/から始まる語尾がつく場合であり、子音語幹動詞には直接つき、ア段音となる。一方、母音語幹動詞に付く場合は、母音が連続してしまうので、これを避けるために/r/や/s/が挿入される。例えば受け身などを表す-(r)are-(れる・られる)や使役などを表す-(s)ase-(せる・させる)がこれであり、「書く」ではkak-are(書かれる)のようになるが、「食べる」ではtabe-rare(食べられる)のようにrが挿入される。 また形容詞・形容動詞は文語においてカリ活用やナリ活用といって「~からず」「~ならず」のようになるのであるが、これは語幹と否定の語尾「ず」との間に-ar-(あり)が入っているからである。「あり」は単体では存在を表す語であるが、語尾として使われると指定・措定の文法機能を果たしている。このため、その活用は子音語幹動詞「あり」に準拠して「から」になる。よって、この語形を分析すれば、以下のような構造をしている。 うつくしからず - ((utukusik〈語幹〉 + ar〈語尾〉)〈派生語幹〉 + (a)z〈語尾〉)〈派生語幹〉 + u(語尾) ちなみに現代口語では「あらず」の代わりに「ない」が使われるようになり、「うつくしくない」のようになったのであるが、丁寧形では「ありません」というように「ある」が維持されており、形容詞・形容動詞の丁寧形でも「おいしくありません」「静かではありません」のように「ある」が使われている。
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