舟歌とフォーレ
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「舟歌 (フォーレ)」の記事における「舟歌とフォーレ」の解説
舟歌とはヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの歌に由来する声楽曲または器楽曲で、ピアノ曲では夜想曲や幻想曲、即興曲と並ぶ標題のひとつとなっている。多くは6/8拍子や12/8拍子の複合拍子をとり、優しくゆったりとしたリズムの上にメロディーを乗せ、河や海を漕ぎゆく舟と揺れ動く波の雰囲気を表わす。声楽曲ではシューベルトの歌曲が有名であり、ウェーバーやロッシーニ、オッフェンバックらのオペラ作品にも舟歌の様式を持つ音楽が用いられた。器楽曲では、ショパン、メンデルスゾーン、チャイコフスキー、ラフマニノフらのピアノ作品がある。 こうした中で、ピアノのためにもっとも多く優れた舟歌を作曲したのがフォーレである。フォーレの舟歌は、同様に13曲書かれた夜想曲とともに、彼の音楽活動ほぼすべての期間を通じて作曲されている。これらはフランス音楽史において、19世紀後半のロマン派後期から20世紀の近代主義へと移行する時代に書かれた。フォーレはまた、声楽作品の分野でもマルク・モニエの詩を用いた歌曲『舟歌』作品7-3(1873年ごろ)やポール・ヴェルレーヌの詩による『ヴェネツィアの5つの歌曲』(1891年)など舟歌の様式を用いた作品を残している。 フォーレが実際にヴェネツィアを訪れたのは舟歌第4番まで作曲後の1891年であるが、1881年に書かれた舟歌第1番のみならず、すでに述べたように創作最初期の歌曲から早くも舟歌の様式上の特徴が現れていることから、20世紀日本の音楽評論家美山良夫は「舟歌の様式はフォーレにとって最も日常的な世界であり、『舟歌』こそ人間フォーレを体現している」と述べている。 フォーレの音楽にしばしば舟歌の要素が見られることについては、フランスの哲学者ウラジミール・ジャンケレヴィッチ(1903年 - 1985年)も複合拍子の多用という点で舟歌的側面がフォーレの作品に具わっていると指摘している。ジャンケレヴィッチによれば、フォーレの作品の「舟歌的」側面は「夜想曲的」側面と「子守歌的」側面とともに、唯一の安らぎについての三つの様相を言い表したものであり、したがってフォーレの作品においては、曲に付けられた題名からジャンルや分野を明確に限定することは困難である。 ジャンケレヴィッチはさらに、フォーレの歌曲集『イヴの歌』(シャルル・ファン・レルベルグの詩による)から「生命の水」(第6曲)や古代ギリシアの哲学者タレスの言葉とされる「万物は水から生まれ、水に帰る」を引用しつつ、次のように述べている。 「フォーレは、13曲の舟歌において、水の流れを扱うその優れた手腕を通じて、原初の泉と原始の大洋とを結ぶ、すなわち、アルファからオメガへと移行してゆくような重要な大河を表現しようとしていたのではあるまいか。」 — ウラディミール・ジャンケレヴィッチ
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