発電の仕組みと効力
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 04:54 UTC 版)
デンキウナギの発電器官は、筋肉の細胞が「発電板」という細胞に変化したものである。数千個の発電板が並んだ発電器官は体長の5分の4ほどあり、頭部側に位置する肛門から後ろはほとんど発電器官と言ってよい。この発電器官は頭側がプラス極、尾の方がマイナス極になっている(デンキナマズは逆)。発生する電圧は発電板1つにつき約0.15 V にすぎないが、数千個の発電板が一斉に発電することにより、最高電圧は600Vから800V・電流は1A にも達する強力な電気を発生させることができる。ただし、この高電圧は約1000分の1秒ほどしか持続しない。デンキウナギはもっと弱い電流の電場を作ることもでき、弱い電場を作ることにより、濁った水中で障害物や獲物を探知していると考えられている。しかし、1分以上も電気を発生させ噛み付いてきたカイマンを感電死させたという報告もされている。 「実際に感電するのは体に触れたときであり、デンキウナギがいる水槽にヒトがそっと手を入れるくらいであれば深刻な感電はしない」などといった俗説は事実ではなく、実際に水族館では水槽に電圧計を設置し観客に見せているところも多い。電圧計は900Vに達する場合もある。発電するには筋肉を動かすのと同じく神経からの指令を受け、ATP を消費する。そのため、疲れたり年老いたりしている個体ではうまく発電できない場合もある。またそれは、疲労した状態に追い込めば比較的安全に捕獲できるということでもあり、水面を棒などで叩いてデンキウナギを刺激して発電させ、疲れて発電できなくなったところを捕獲する漁法がある。 デンキウナギのほかにも多種多様の発電魚が知られているが、これらの発電の主目的はおもに身辺に電場を作って周囲の様子を探ることにある。ただし、デンキウナギは他の発電魚よりも強力な電気を起こせるため、捕食と自衛にも電気を用いることができる。獲物の小魚を見つけると体当たりして感電させ、麻痺したところを捕食する。また、大きな動物が体に触れたときも発電して麻痺させ、その間に逃げる。渡河する人間やウマがうっかりデンキウナギを踏みつけて感電する事故が時折起こるが、なかには心室細動を起こした例もあるという。ウマは感電死することがあるが人間が死亡するほどの強さではない。水中で感電すれば溺死の原因となりえ、いずれにせよ危険ではある。 19世紀の博物学者アレクサンダー・フォン・フンボルトは1807年、南米旅行時に目撃した馬を用いた先住民のデンキウナギ漁について学術雑誌『ANNALEN DER PHYSIK』に報告を寄せている。これによれば先住民は数頭の馬をデンキウナギの生息する沼に追い込み、放電して弱ったデンキウナギを捕獲するという手法であった。しかしながら、こうしたデンキウナギの攻撃手法について科学的な裏付けがなされなかったこともあり、フンボルトの報告は長い間信じられていなかった。ところが2016年に入り、アメリカ合衆国テネシー州バンダービルト大学の生物学者ケネス・C・カターニアにより『Proceedings of the National Academy of Sciences』にひとつの論文と動画が発表され、水上から近づいてきた敵に対して飛び上がって放電を行うというデンキウナギの習性が学術的に初めて明らかにされた。 なお、発電時にはデンキウナギ自身もわずかながら感電している。しかし、体内に豊富に蓄えられた脂肪組織が絶縁体の役割を果たすため、自らが感電死することはない。
※この「発電の仕組みと効力」の解説は、「デンキウナギ」の解説の一部です。
「発電の仕組みと効力」を含む「デンキウナギ」の記事については、「デンキウナギ」の概要を参照ください。
- 発電の仕組みと効力のページへのリンク