環境・生体への影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/17 05:19 UTC 版)
「セシウムボール」の記事における「環境・生体への影響」の解説
セシウムボールは溶解しにくいため環境・生体に長く留まる可能性があり、粒子のごく近傍への放射線の影響が懸念されている。セシウムボールの溶解実験によると、セシウムボールは純水より海水で溶けやすく10年程度で溶解する。一方、異なる実験条件下で肺の内部を模した模擬肺液による実験では、純粋・海水より溶解が速いものの、溶解までに35年以上を要するとする報告もある。 おおむねPM2.5(微小粒子状物質)に相当する大きさであるセシウムボールは、ヒトが呼吸で吸入した場合、肺胞ないし気管・気管支に沈着する割合が相対的に大きい。国際放射線防護委員会 (ICRP) による呼吸気道モデルに基づく想定では、粒径1–2マイクロメートル (μm) の粒子のおよそ1割ほどが肺胞に沈着する。水溶性のセシウムの場合、肺胞に沈着したセシウムは比較的すみやかに血液に吸収され全身に薄く広がったのち代謝により生物学的半減期100日程度で排出される。一方、セシウムボールのような不溶性の粒子の場合、一部はマクロファージに貪食されすみやかに気道へと移動・排出されるが、一部は間質(英語版)を経てゆっくりと肺門リンパ節をはじめとするリンパ節に移動し、その場合は数十年に及ぶ長期間に渡り生体内に滞留すると推定される。 実際、東京電力作業員に対する調査で、胸部のみ放射性セシウムの減少の一部が実効半減期3000日以上を示すような遅い例が見つかっており、不溶性の粒子が肺に残留していると疑われている。放射線医学総合研究所の栗原治は、その場合でもICRPの考え方に従えば、健康影響を心配するほどの量とはならないだろうとTVインタビューで見通しを述べている。一方、ICRPなどによる現在の内部被曝線量評価の枠組みには極端な比放射能をもち長期間滞在するような粒子の影響は組み入れられていないため、線量に対するセシウムボールの影響の詳細な評価の必要性が呼びかけられている。 定量的影響を見積もる試みとして、日本原子力研究開発機構の真辺健太郎らは、1粒子の動態から線量を確率分布として評価するモデルを作成した。不溶性粒子のうち長期に留まるものの割合を、吸入する粒子のうちの4パーセントとし、吸入した粒子の各種動態すべてに対する算術平均値としての肺全体の預託吸収線量は長期残留粒子によって1.6倍まで押し上げられた。一方、セシウムボール中のセシウム核崩壊時のベータ線はセシウムボールの周囲1ミリメートル (mm) 以内の局所にほぼ吸収されラジカルを生成するため、局所での影響の評価が重要となる。宇都宮らは、厚さ100マイクロメートル (μm) の水に単一のセシウムボールからのベータ線が与える時間あたり吸収線量をその領域において数ミリグレイ毎時 (mGy/h) 、それによるヒドロキシルラジカル (•OH) など主要なラジカルの発生量がそれぞれ毎秒数100から数1000基になると見積もっている。これは生体内ではごく局所の細胞のラジカルによるDNA損傷(英語版)の数を増加させることにつながる。
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