演目名と通称
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 07:16 UTC 版)
江戸時代の歌舞伎狂言の演目名(外題(げだい)という)は縁起を担いで「割りきれない」奇数個の漢字で書けるものが選ばれることが多く、その読み方は粋を競って当て字や当て読みを駆使したものであるため、一見しただけではその読み方が分からないものも少なくない。こうした事情により、外題のほかにより親しみやすい通称がついていることが多く、この場合もともとの外題を通称と区別するために本外題と呼ぶ。また各演目の人気のある場面(段・場・幕など)には演目それ自身の通称とは別にその場面の通称がついている場合もある。 具体例は下記のとおりである。 演目そのものに通称がついている例:『都鳥廓白波』(みやこどり ながれの しらなみ) →『忍の惣太』(しのぶの そうた) 『大塔宮曦鎧』(おおとうのみや あさひの よろい) →『身替り音頭』(みがわり おんど) 『慙紅葉汗顔見勢』(はじ もみじ あせの かおみせ) →『伊達の十役』(だての じゅうやく) 『刈萱桑門筑紫𨏍』(かるかや どうしん つくしの いえづと) →『刈萱道心』(かるかや どうしん) 『青砥稿花紅彩画』(あおとぞうし はなの にしきえ) →『白浪五人男』(しらなみ ごにんおとこ) 『与話情浮名横櫛』(よはなさけ うきなの よこぐし) →『切られ与三』(きられ よさ) 『蘆屋道満大内鑑』(あしやどうまん おおうち かがみ) →『葛の葉』(くずのは) 特定の段に通称がついている例:『絵本太功記』(えほん たいこうき)十段目「尼ヶ崎閑居の場」 →『太十』(たいじゅう) 『心中天網島』(しんじゅう てんの あみじま)二段目「天満紙屋内の場」→『時雨の炬燵』(しぐれの こたつ) 『国性爺合戦』(こくせんや かっせん)二段目「獅子ヶ城楼門の場」→『楼門』(ろうもん) 『楼門五三桐』(さんもん ごさんの きり)二幕目返し「南禅寺山門の場」→『山門』(さんもん) 『平家女護島』(へいけ にょごがしま)二段目切「鬼界が島の場」→『俊寛』(しゅんかん) 『恋飛脚大和往来』(こいびきゃく やまと おうらい)二段目「新町井筒屋の場」→『封印切』(ふういんぎり) 『義経千本桜』(よしつね せんぽん ざくら)四段目「道行初音旅の場」→『吉野山』(よしのやま)、四段目切「河連法眼館の場」→『四ノ切』(しのきり) なお、返し(返し幕)とはいったん幕を引くが幕間を設けず、鳴り物などで間をつなぎ用意ができ次第すぐに次の幕を開けること、切とは義太夫狂言のその段の最後の場面のことで、すなわち『四ノ切』とは四段目の最後の場のことをいう。『義経千本桜』の四段目の切はケレンを使った派手な演出が有名な人気の場面で、これが上演されることが特に多かったことから、ただ「四ノ切」と言えばこの場面を指すようになった。 「外題」という語は「芸題(げいだい)」が詰まって「げだい」になったとする説もあるが、古代から中世にかけては絵巻物の外側に書かれた短い本題を「外題」、内側に書かれた詳題を「内題」と言っており、これが起源だとする説もある。外題はもともと上方歌舞伎の表現で、江戸歌舞伎では名題(なだい)といっていた。こちらにも「内題(ないだい)」が詰まって「なだい」になったとする説があり、上方の「外題」と江戸の「名題」で対になることが、絵巻物起源説の根拠となっている。
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