湖面低下問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/06 15:36 UTC 版)
20世紀中頃から湖面の低下が観測されている。「近年中に、中央部分に突き出した半島部分(リサン半島)が対岸と接合し、2つの湖となってしまうのではないか」と危惧する声が一部で上がり、2010年代末には死海分断の懸念は現実になった。その原因については、イスラエルの建国(1948年)以降、農業の盛んな同国による、ヨルダン川上流部での大規模な灌漑用水の利用によるものであろうと一般に考えられている。また、死海南部での取水によるカリウム生産も水位低下の一因と考えられている。原因不明の降雨不足や、近隣のホテルが大量の井戸水を使用するようになったことも一因とされる。ヨルダン川からは飲料水も取水されているほか、ミネラルが豊富な死海の湖水を美容製品に使うための汲み上げも影響している。 イスラエル地質調査所によれば、平均で1年に1メートルのペースで湖面が低下しており、2004年には海抜マイナス417メートルだったのが、2014年には同428メートルとなっているという。2019年時点では同433メートルとさらに下がった。2050年までに完全に干上がると主張する環境団体もある。 死海の湖面の低下に連動して起こる海岸部の地盤沈下の問題も顕在化してきている。ホテルの立地している場所や農地では経済面に与える影響も懸念される。 現在、湖面の低下による死海の消滅を阻止するため、紅海と死海を結ぶ運河を建設し、紅海の海水を死海に取り入れる計画が進行している(レッドデッドプロジェクト)。ヨルダンによる計画では、アカバ付近で海水を取水し、利用可能な真水を取り出した残りの濃い塩水を死海に放水することが構想されている。 2013年12月9日、イスラエル、ヨルダン、パレスチナ自治政府は、米国首都ワシントンD.C.にある世界銀行本部において水資源の分配計画に署名した。この計画には紅海の水を死海に取り込むパイプラインの設置についても含まれており、パイプラインは全長180kmでヨルダン領内に設置される予定。完成まで約3年を見通しており、世界銀行などからの融資で賄う建設費は3億ドルから4億ドル(日本円で約309億円から412億円)と試算されている。このパイプライン設置計画には日米両政府も支援を表明したが、米国のドナルド・トランプ政権による親イスラエル政策(エルサレムの首都認定など)を受けたイスラエルとヨルダンの関係悪化により頓挫状態にある。
※この「湖面低下問題」の解説は、「死海」の解説の一部です。
「湖面低下問題」を含む「死海」の記事については、「死海」の概要を参照ください。
- 湖面低下問題のページへのリンク