河豚の卵巣の糠漬けとは? わかりやすく解説

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河豚の卵巣の糠漬け

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/14 13:59 UTC 版)

河豚の卵巣の糠漬け

河豚の卵巣の糠漬け(ふぐのらんそうのぬかづけ)は石川県郷土料理[1][2]

猛毒のテトロドトキシンが含まれているフグ卵巣を3年間塩漬け糠漬けにすると解毒され、食べられるようになる[1][2]。解毒される仕組みが不明のため、伝統的な製造方法が守られている[2]河豚の子糠漬け(ふぐのこぬかづけ)とも呼ばれる。

本項では、佐渡島新潟県)や福井県高浜町でつくられる、フグの卵巣の粕漬けについても解説する。

概要

フグの卵巣には肝などと同様に、致死性の高い毒素テトロドトキシンが多く含まれているため、生食はもちろん加熱調理しても食中毒を起こす。

しかし、石川県の白山市美川地域(旧・美川町)や金沢市金石大野地区では、卵巣を3年以上にもわたって塩漬けおよび糠漬けにすることで解毒し、珍味として販売している。

石川県と同じ日本海側にある佐渡島では、酒粕に漬ける[3] 。福井県高浜町では、サバへしこ(糠漬け)づくりのついでにフグの卵巣(真子)を漬けると毒が消えることが経験的に知られており、3年以上の塩漬けと水洗い、天日干し、1年間の粕漬けを経て食用とする「福のこ」がつくられている[4][5]

食品衛生法により食用が基本的に禁止されているフグの卵巣を、こうした加工法で食品として製造しているのは、日本全国でこれらの地域のみである。発酵学者小泉武夫は「地球上で最も珍しい発酵食品」と評している[1]

一般的な魚卵に比べて塩漬け期間が長いため塩気が強いのが特徴。表面に残った糠は水洗いせず、ぬぐうように落とし、軽く焙って食べる[6]。味は濃厚で、米飯おかず酒肴とされるほか、うまみや塩気を活かしてお茶漬けパスタなどの味付けに活用されることもある。

白山市の河豚の卵巣の糠漬けは「美川のふぐの子糠漬(みかわのふぐのこぬかづけ)」として、2022年3月3日文化庁100年フードに認定された。2022年時点では、石川県から認定された唯一の例となる[7]

製法

毎年5月から6月にかけて日本海沿岸で獲れたゴマフグを解体し、取り出した卵巣を1000リットルタンクに漬け込む塩蔵を行う。この際に約30%もの食塩を加えるため、内部の水分が外に出て卵巣が固くなる。

塩蔵は1年から1年半かけて行なわれ、塩蔵が終わると、水洗いして表面の塩を除いた後に糠の唐辛子とともに一斗樽に漬けられる。この糠漬けの工程(糠蔵)では、石の重しなどで木の蓋を押さえて空気に触れないようにし、イワシから作った魚醤いしる)が縁から注ぎ込まれる。

半年ないし1年ほど糠漬けされた卵巣は、採取してハツカネズミに食べさせ、テトロドトキシンの含有量を調査した後、出荷される。石川県の要項では、基準値は1グラムあたり10マウスユニット以下になっている。また、糠漬けの後にさらに酒粕に1ヶ月漬け込むと、「河豚の子粕漬け」となる。

除毒機構

上述の製法により、卵巣内のテトロドトキシンの量は塩蔵時に原料の5分の1、糠蔵時に30分の1にまで低下する[8]

ただ、卵巣がいかなる要因機序を経て減毒されるのかについては分かっておらず、塩漬けにする時の塩析効果脂質が分離し、水分とともに外部に析出するために毒素が希釈されるというのが有力な一説だが、未だ不明な点が多い。

かつては糠に含まれるある種の酵素発酵する際に毒素を分解するのではないかという説が提唱されていたが、卵巣の糠漬けから採集された200種類以上の細菌からはいずれもテトロドトキシンの分解能が確認されなかった上、細菌の培地に糠漬けを接種しても毒量は変化しなかったとの研究結果があり、可能性は極めて低い[9][10][11]

製造の資格免許

河豚の卵巣の糠漬けの製造を認められているのは、日本でも石川県の21軒だけで、うち15軒は個人、6軒が事業者で、事業者6軒のうち5軒は白山市美川にある[1]。出来上がった糠漬けは、石川県予防医学協会による毒性検査を受け、毒素が消失したことを確認した後に出荷されている。白山市ではかつて数十社が製造していたが、2022年時点では5社に減っている[6]

2005年3月、石川県輪島市朝市で購入した河豚の卵巣の糠漬けによる食中毒事件があったが、原因となった糠漬けの加工業者は無免許で、漬け込みも1年半しか行っていなかったことが判明した[12]。免許を受けて製造された河豚の卵巣の糠漬けによる食中毒は、発生していないとされている[1]

出典

  1. ^ a b c d e いま食べたら命落とすが、3年後なら大丈夫…石川に禁断の味あり フグの子のぬか漬け」『朝日新聞夕刊』2022年11月21日。2022年11月21日閲覧。
  2. ^ a b c 石川県に伝わる、幻の珍味。「ふぐの子糠漬け(卵巣の糠漬け)」を食べてみた”. 三越伊勢丹の食メディア | FOODIE(フーディー) (2015年5月25日). 2022年6月15日閲覧。
  3. ^ 新潟県 ふぐの子の粕漬け”. うちの郷土料理. 農林水産省. 2023年1月16日閲覧。
  4. ^ フグの真子の粕漬け”. 福井テレビジョン放送 (2020年2月9日). 2023年1月16日閲覧。
  5. ^ 福井県 高浜町 五作荘 福のこセット”. ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」. 2023年1月16日閲覧。
  6. ^ a b 【東京ご当地紀行】石川県白山市:フグ卵巣 毒消せば極上のうまみ/糠漬けに先人の工夫」『朝日新聞朝刊』2022年12月2日。2023年1月16日閲覧。
  7. ^ 美川の珍味が100年フードに認定されました”. 白山市 (2023年1月13日). 2024年5月24日閲覧。
  8. ^ 板垣英治「フグの子糠漬け」『化学と工業』第58巻第12号、日本化学会、2005年、1416頁。 
  9. ^ 藤井建夫『伝統食品・食文化in金沢』幸書房、1996年、1頁。ISBN 978-4782101452 
  10. ^ 小林武志、木村凡、藤井建夫「フグ卵巣ぬか漬けの微生物によるフグ毒分解の検討」『日本水産学会誌』第69巻第5号、社団法人日本水産学会、2003年、782-786頁。 
  11. ^ 小林武志、木村凡、藤井建夫「フグ卵巣ぬか漬けの微生物によるフグ毒分解の検討」『日本水産学会誌』第69巻第5号、社団法人日本水産学会、2003年、853頁。 
  12. ^ ふぐの子糠漬(ぬかづけ)の安全性について”. いしかわや通信. 2023年1月16日閲覧。

関連項目

外部リンク


河豚の卵巣の糠漬け

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/03 02:15 UTC 版)

ふぐ料理」の記事における「河豚の卵巣の糠漬け」の解説

石川県白山市(旧・石川県石川郡美川町地区)には、ふぐの卵巣を糠(ぬか)に漬けた「ふぐの子糠漬け」という郷土料理がある。フグの肝や卵巣フグ毒多量に含んでいるが、塩水1年、糠の中に2年から3年漬ける分解され、ほとんど人体影響与えなくなるレベルにまで低下する。この経過経て、ふぐの卵巣の糠漬け珍味として重宝される。 ふぐの子糠漬け粕漬けは、猛毒ゴマフグ卵巣上記のように加工したもので、製造・販売許可されているのは石川県のみである。

※この「河豚の卵巣の糠漬け」の解説は、「ふぐ料理」の解説の一部です。
「河豚の卵巣の糠漬け」を含む「ふぐ料理」の記事については、「ふぐ料理」の概要を参照ください。

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