氷核活性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 09:28 UTC 版)
「シュードモナス・シリンガエ」の記事における「氷核活性」の解説
P. syringaeは、植物の霜害の原因となる氷核活性 (英: ice nucleation-active:Ina、英: ice-plus) タンパク質を産生する。完全に純粋な水は、氷点下(0℃以下)になっても凍結せず、-40℃までは過冷却の液相状態を維持する。何らかの異物が混入している場合、その異物を凝結核として水の凝固が促進されるため氷点下以下のより高い温度で水の凍結が開始する。Inaタンパク質は、細菌の細胞表面の細胞壁に存在する氷の凝結核となるタンパク質であり、凝結核の中でも比較的高い温度(-4~-2℃)で水の凍結を促進する。混入している水の凍結を開始する温度は日常的な塵や埃で-10~-15℃程度、砂塵に含まれるカオリンで-9℃、強力な氷結剤とされるAgI結晶で約-8℃である。Inaタンパク質を持つ氷核活性細菌は一般に-5℃以上で、時に-1℃で水を凍結させ、現在知られている中で最も強力な氷結剤である。P. syringaeは世界で最初に氷核活性細菌としてスクリーニングされた菌種であり、P. syringae以外の氷核活性細菌として同じシュードモナス属のP. fluorescensやP. viridiflava、エルウィニア属のErwinia. Ananas、E. herbicola、E. stewartii、キサントモナス属のXanthomonas. campestrisなどが知られている。 1970年代以降、P. syringaeは、大気中の浮遊細菌が雲の凝結核として機能することによる「生物氷核」と関係があると考えられた。最近の研究は、雨や雪といった、生物起因性の降水 (英: bioprecipitation)に、依然考えられていたよりもこの菌種が大きな役割を果たしていることを示唆している。この菌種は霰の塊の核から発見され、bioprecipitationの原因であることが明らかとなった。Inaタンパク質は人工雪の生産にも用いられており、1988年カルガリーオリンピックで、ガンマ線照射により殺したP. syringae菌体粉末は降雪剤として使用され、雪不足のゲレンデに雪を降らせた。 P. syringaeは植物への霜害の最大の原因とされている。不凍タンパク質をもたない植物にとって、通常、植物組織内の水が過冷却の液体状態になる-12から-4℃で霜害は発生する。P. syringaeは-1.8℃以上の温度で水の凍結を引き起こすことができ、実際の自然ではもう少し低い温度(-8℃以下)で氷核となることが一般的である。この凍結は植物上皮の損傷を引き起こし、P. syringaeが霜の下にある植物組織中の栄養を利用できるようにする。 P. syringaeは霰の塊の中心から発見され、地球の水循環において役割を果たしていると考えられている。
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