水素脆性とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 工学 > 材料用語 > 水素脆性の意味・解説 

水素脆性

高炭素鋼特殊鋼一部炭素含有量の多い材質)のものは、酸処理メッキ工程 で、浴中で発生する水素素材中に吸蔵し素材もろくなる。この現象を水素脆性 といい、水素脆性を起こした素材割れやすくなり、バネ材では致命的な欠陥となる ので注意が必要である。

水素脆化

(水素脆性 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/07 04:19 UTC 版)

水素脆化(すいそぜいか、水素ぜい化、英語: hydrogen embrittlement)とは、鋼材中に吸収された水素により鋼材の強度延性または靭性)が低下する現象のこと。

概要

全ての金属材料が水素侵入により誘発する金属強度の劣化現象である[1]水素脆性水素もろさともよばれる[1]。水素特有の現象として存在しているのは水素イオンの大きさが直径1fmと非常に小さく、通常の原子やイオンの直径0.1nmに対して10万分の1の大きさしかない陽イオンである為、自由電子を有する金属結合内に容易に侵入し拡散してしまうからである。その結果、水素は金属材料では扱い難い物質となっている。

水素脆化は、腐食溶接、酸洗い、電気メッキなどによる水素吸収が原因とされる。この水素吸収による破壊は「遅れ破壊」とも呼ばれる。水素脆性破壊は、結晶粒界、引張り応力のかかる箇所、応力の集中する部分で起こりやすい。ハーバー・ボッシュ法の開発にはこの問題が付きまとったことで知られる。 例として酸性の溶液内の鋼が急激に割れてしまうことがあるが、これは溶液中の水素イオンが鋼中に侵入し、鋼を脆化させることに起因している。これらは古くから認識されてきた問題である。

水素脆化に関する研究は古くから、そして現在も数多く行われている。しかし、脆化を引き起こす影響因子が材料、応力、環境と多く複雑にからんでおり、その本質は現在も不明である[2]

水素脆化は拡散性水素の局在化に関連した現象であるため、水素量のほかに、拡散に関するパラメータである時間温度のほか、応力状態(応力三軸度)・ひずみ・そもそもの材料強度にも依存する。加えて、材料中の拡散性水素の挙動を把握することも困難であり、これらの要素が本質的解明を阻害している。

水素脆性が問題となる例は数多く、水素を燃料とするロケットエンジンの開発や水素燃料電池車エンジンの開発で問題になった。金属には水素を取り込む性質を持っている物があるため、一度水素に対して暴露されると水素脆性の問題が出てくる。特にステンレス鋼は水素による材料の強度、延性が低下する現象が顕著であるため、低強度材、つまり水素感受性の小さな材料での使用に制限したり、脱水素ベーキング)処理を施すことで、一応の解決を得ている。この際、金属の結晶格子内に浸透した水素原子は、金属水素化物になる。

現在は環境問題の観点も含め、軽量化、高強度化が強く求められ、構造部品の高応力設計が必要になってきている。金属材料の性能をより限界に近い部分で発揮させようとすれば、前述のステンレス鋼の解決策のように、低強度材のみの使用に制限することはできなくなり、水素脆化が問題になる。このため、メカニズム解明と抜本的解決がますます求められるようになっている。

対策

2010年平成22年)、九州大学産業技術総合研究所の研究グループ[3]が、ステンレス鋼中に大量の水素を侵入させる[4]と、金属強度が低下するという常識に反して、逆に疲労強度特性が著しく改善することを発見した[5]

2013年(平成25年)には、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)と、米国サンディア国立研究所などの研究グループは、水素に酸素を添加することで、金属疲労を抑制できることを発見するとともに、その定式化にも成功した。金属内で酸素がき裂表面に優先的に吸着され、水素原子の侵入を防止するためである[6]

水素脆性の除去には、加熱して水素を減らす方法と、水素タンク内にアルミの被覆膜をつけるなどの対策がある[7]

利用

一方で、金属における水素の取り込みを利用する例も見られる。一部の水素吸蔵合金では、吸収・放出サイクルによって微粉化する現象が見られる。また、希土類磁石の製造工程においてこの現象を利用することによって原料を粉砕する手法も用いられている。パラジウム内に吸蔵された重水素原子による常温核融合に関与する可能性も一部で議論されている。

日立GEニュークリア・エナジーでは、炉心溶融(メルトダウン)を起こした原子炉炉心溶融物(デブリ)の除去時に炉心溶融物を粉砕するために水素脆化を利用する事が検討される[8]

脚注

  1. ^ a b “水素脆性 すいそぜいせい hydrogen brittleness”. ブリタニカ国際大百科事典小項目事典. https://kotobank.jp/word/%E6%B0%B4%E7%B4%A0%E8%84%86%E6%80%A7-83039 2017年12月11日閲覧。 
  2. ^ 高井健一「金属材料の水素脆性克服に向けた分析技術の重要性・新展開」(PDF)『SCAC NEWS』2009-II、3-6頁。 オリジナルの2014年3月20日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20140320191417/scas.co.jp/scas_news/news/pdf/30/talk_30.pdf2014年3月20日閲覧 
  3. ^ 村上敬宜九大名誉教授がリーダー
  4. ^ 高圧で70 ppm以上の水素をしみこませた。
  5. ^ 産総研:水素で金属材料の強度が向上
  6. ^ 水素中の金属疲労を抑制する方法の発見とその定式化に成功
  7. ^ 「水素で金属劣化 覆す現象」2014年6月15日日本経済新聞17面
  8. ^ 破損あるいは溶融した核燃料の処理方法(archive版)

関連項目

外部リンク


水素脆性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/10 23:12 UTC 版)

化学平衡」の記事における「水素脆性」の解説

水素 H2 は高温高圧下で、通常の鋼の中にある炭素反応しメタン CH4 として、取り除かれしまうために、鋼の強度低下し(水素脆性)爆発してしまうことがあるカール・ボッシュは、内側には炭素をほとんど含まない軟鉄で H2 との反応抑えて外側には炭素多く含んだ鋼鉄で強い圧力支えるという、特殊な NH3 合成用特殊な二重鋼管開発しこの問題解決した

※この「水素脆性」の解説は、「化学平衡」の解説の一部です。
「水素脆性」を含む「化学平衡」の記事については、「化学平衡」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「水素脆性」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ

「水素脆性」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「水素脆性」の関連用語

水素脆性のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



水素脆性のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
材料屋.com材料屋.com
Copyright(c) 2004-2025 (有)イーマテリアル
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの水素脆化 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの化学平衡 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS