棚田式魚道
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/17 16:05 UTC 版)
もうひとつの代表的な扇形魚道として「棚田式魚道」が挙げられる。同じく扇形の魚道表面(底面)に配置する自然石は扇形の魚道の輪郭に沿って並べられ、順次上流側に向かって間隔をおいて階段状に配置されている。各段の自然石の配列は階段式のプール壁を年輪状に形成されている。魚道全体として原風景の「棚田」を連想させる構造である。 この魚道のプール水深は20 cm程度としてある。従来の魚道のプール水深が60 cm - 80 cm以上とされてきたのに比べ浅く設定してあるが、この水深については各種の実験結果などにより、アユの遡上行動、跳躍行動、メンテナンスフリーなどにおいて良好な成果が報告されている。また、自然石を連続して並べて自然石と自然石の間に隙間のあるプール壁としてある。この隙間の部分を魚類をはじめ水棲生物が移動経路として通過していくのが確認されている。魚類をはじめとする生物は棚田式魚道の底面に沿って魚道内を遡上することになるため、従来のように幾つものプール壁を乗り越えなくても良い魚道となっている。この隙間付きのプール壁は「スリット付きプール壁」と称されている。 「棚田式魚道」においても、魚道の表面勾配は縦断方向より横断方向を急に設計してある。中央部とそれを挟んだ左右の扇状の側面からの遡上経路や、河川構造物直下の魚道に設ける「集水溝」、魚道底面全体に設けられた細かな自然石の凹凸形状などは前述の「自然石パノラマ魚道」と同様な構造となっており、その有効性についても実験や調査の成果が報告されている。棚田式魚道の左右側面に設けられた扇状の遡上経路の有効性については、実際に設置された幾つかの棚田式魚道において、遡上調査を行って実証してある。左右の扇状部をそれぞれ「左岸側」、「右岸側」とし、それに挟まれたエリアを「中央部」として区分し網で囲って、それぞれの上り口に到達した魚類がそのまま魚道上流部の出口に到達した位置で水中ビデオ撮影を行い、後日それぞれのエリア毎の遡上匹数をカウントした調査結果が報告されている。 中央部は段差部から下流方向に直角に突き出た構造であるため、従来の「突出型魚道」として取り扱い、左右の扇状の遡上経路は扇形魚道の特長である左右からの遡上経路を備えた扇形魚道の構造として取り扱い検証してある。天然アユをはじめとする様々な生物の遡上経路の調査では、いづれの棚田式魚道の遡上調査においても左右の扇状部を遡上経路とした魚類の合計の匹数が、中央部を含めた魚道全体の遡上匹数の3分の2以上に及んでいる結果が報告されている。突出型魚道にあたる中央部からの遡上匹数は全体の3分の1以下となっている。ある棚田式魚道[どこ?]では、アユなどの泳ぎが得意な魚類のほかヨシノボリなどの泳ぎが得意ではない底生魚についても良好な遡上が確認されている。大変多くの底生魚がアユなどと同様に側面からの遡上経路を選んで多く通過していることが報告されている。これらの実験により左右の側面からの遡上経路を備えていない突出型魚道の構造に対し、左右の側面からの遡上経路を備えている扇形構造の優位性・有効性が報告されている。 「棚田式魚道」もまた前述の「自然石パノラマ魚道」と同様に現場打ち施工が困難であるため、棚田式魚道に適した自然石の配置がしてあるコンクリート二次製品が開発され、誰が施工した場合においても魚道としての一定以上の品質が確保できるように図られている。
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