有名な誤った引用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/19 15:26 UTC 版)
「トーマス・J・ワトソン」の記事における「有名な誤った引用」の解説
ワトソンは1943年に「コンピュータは全世界で5台ぐらいしか売れないと思う」と言ったとされているが、証拠は不十分である。Author Kevin Maney は引用の元を探したが、ワトソンのどのスピーチや文書からもその文章は見つけられなかったし、当時のIBMに関する記事などを見てもそのような言葉は出てこない。インターネット上で初めてこの言葉の引用が見られるのは1986年のネットニュースでのことで、発信元はコンベックス・コンピュータであり、"'I think there is a world market for about five computers' —Remark attributed to Thomas J. Watson (Chairman of the Board of International Business Machines), 1943" と記されていた。別の引用は1985年5月15日、San Diego Evening Tribune 紙の記者 Neil Morgan のコラムである。さらに初期の引用として Christopher Cerf と Victor S. Navasky の1984年の著書 The Experts Speak があるが、これは Morgan と Langford の著書 Facts and Fallacies からの引用とされている。Annals of the History of Computing 誌の編集者 Eric Weiss はこれらの引用をいずれも疑わしいと1985年の時点で記している。 1985年、この話がネットニュース (net.misc) でワトソンの名は出さずに話題になった。議論の発端は不明だが、ケンブリッジ大学数学教授 ダグラス・ハートリー の1951年ごろの次の言葉がよく似ているという話が出ている。 私は、微分解析機をイギリスで初めて作り、誰よりもその特殊なコンピュータの利用経験のあるダグラス・ハートリー教授に会いに行った。彼は個人的意見として、この国で必要な計算は当時1つはケンブリッジで、1つはテディントンで、1つはマンチェスターで製作中だった3つのコンピュータでまかなえるだろうと言った。彼はまた、誰もそのようなマシンを所有する必要はないし、そもそも購入するには高すぎる、とも言っていた。 ハワード・エイケンも1952年に似たような言葉を残している。 あちこちの研究所に半ダースほどの大規模コンピュータがあれば、この国のあらゆる計算の要求に対応できるだろう。 この誤った引用は、5台ではなく「50台」と言い換えられることも多い。 なお、この話は1973年には既に伝説として語られており、エコノミスト紙に「よく引用される世界中で5台のコンピュータで十分という予言をワトソンが決してしなかったことは明らか」という Maney の言を引用している。 一般にこの引用句は間違った予言の例として挙げられるが、ワトソンが1943年にこれを言ったとすれば、ゴードン・ベルがACMの50周年式典の基調講演で述べたとおり、少なくともその後10年間については正しかったと言える。 IBM Archives Frequently Asked Questions では、この件についての疑問(ワトソンは1950年代にこれを言ったのか)に答えている。それによると答えはノーで、当時社長となっていたトーマス・J・ワトソン・ジュニアが1953年4月28日の株主会議で、IBM 701 について述べた言葉が元ではないかという説を記している。IBM 701 は「IBM初のコンピュータ製品で、科学技術計算用に設計されている」。彼はその会議で「IBMはそのようなマシンの開発計画を策定し、そのようなマシンを使う可能性のある20ほどの場所に説明に回った。なお、このマシンは月額12,000ドルから18,000ドルでレンタルされるものであって、右から左へ売買されるようなものではない。我々はこの巡回で5台の注文を予定していたが、結果として18台の注文を得た」と述べたという。なおワトソン・ジュニアは後に自伝に若干異なる話を載せており、確実な注文は11台、他に見込みがありそうな顧客は10箇所だったと記している。
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