普及と誤解
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/01 03:16 UTC 版)
「オルバースのパラドックス」の記事における「普及と誤解」の解説
このパラドックスそのものは、定常宇宙論を唱えたボンディの1952年の著作『宇宙論』(Cosmology) によって一般に広く知られるものとなった。 ボンディはこのパラドックスを19世紀の天文学者オルバースによるものとし、それにその名を冠した。 オルバースも先行した議論に言及しなかったため、現在でもパラドックスがオルバースによるとされることがある。 オルバースのパラドックスが提示する問題そのものは夜空の暗さという身近な問題である上に、容易に理解できるものであり、またそれついて考えることは宇宙の構造について理解を深めることにもなるため、宇宙論について解説した一般向けの書籍などでこのパラドックスはよく取り上げられる。 しかし、専門家の書いた書籍においても、その起源に限らずこのパラドックスの内容やその解決は、しばしば誤解や混乱を伴って受け取られている。 例えば、パラドックスの帰結が「夜空が無限の明るさで輝く」とされることもあるが、これは星の大きさによる重なりを無視してその明るさの総和のみを考えていることにあたり、シェゾーやオルバースが提示した問題そのものとは微妙に異なる。 シェゾーやオルバースは、飽くまで幾何光学的に光が直進するとして星の大きさを考え、結果として夜空が無限ではなく、太陽面と同等の有限の明るさになるとした議論を展開している。 よって彼らの議論では、前提となる宇宙の大きさは量的な問題で、必ずしもパラドックスに無限の宇宙が必要とされるわけでも、その解決が有限の宇宙ならば常に十分なわけでもない。 さらに、ボンディがその著作で展開した解釈が広まったために、パラドックスの解決が、赤方偏移のために遠方の星が見えなくなっているためであり、パラドックスが成立しないことが宇宙が膨張していることの証拠のひとつであるとしてしばしば取り上げられる。 しかし、少なくともパラドックスの帰結が成立していないことは直ちに宇宙の膨張を含意するものではなく、さらに、赤方偏移はボンディが唱えた定常宇宙論での解決となりうるが、ビッグバン宇宙論ではパラドックスに対して大きな役割を果たせないことが理論的考察から示されている。 このため、この問題を研究してきた複数の宇宙論研究者は、膨張宇宙や赤方偏移がパラドックスの本質的解決とはならないとしている。 一方、実際の観測結果にもとづけば、宇宙で最初の銀河が作られるまでにはビッグバン後およそ数億年を待たねばならない。 それ以前の星のない期間は宇宙史の暗黒時代とも呼ばれている。 しかも遠方の恒星の密度は現在の宇宙よりまばらで、多くの恒星はさらに後になって形成が進んだ。 よって実際にも可視光で見えなくなるほど赤方偏移している恒星は一様な銀河の分布を仮定するよりも少ない。 なお、実際の宇宙におけるパラドックスの議論にはこうした微妙な点を含んでいるものの、一般に、単独ではその影響が距離によって減衰するはずの何らかの放射体が一様かつ無数に分布するとみなせ、その総和が発散あるいは飽和するように考えられるとき、しばしばそうした現象を表すものとしてオルバースのパラドックスの名が援用されている。なお、肉眼における錐体細胞は6等星より暗い光には感知しない。 夜空の背景が無数の星々によってなぜ白く輝いていないのかという問題は、人々がかつて思い描いていた宇宙の構造と密接に関連した問題であり、その時々に提案された解答は、無限の宇宙や星々を人々がどう捉えているかという宇宙像を反映しそれと表裏をなすものであった。
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