普及と発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/21 15:54 UTC 版)
「オーステナイト系ステンレス鋼」の記事における「普及と発展」の解説
クルップ社によって発明されたオーステナイト系ステンレス鋼V2Aは、当時フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュが開発したハーバー・ボッシュ法によるアンモニア製造に採用された。V2Aがアンモニア合成のための硝酸タンクの材料に使われた。ハーバーとボッシュの居たBASF社は1914年にクルップ社にV2Aを約20トン発注し、オーステナイト系ステンレス鋼の工業材料としての活用が始まった。 BASF社のV2A使用の中で腐食問題が起き、これを解決するためにV2Aの改良が行われた。1922年から1930年にかけて、銅またはモリブデン添加による非酸化性酸への対策、含有炭素低減化による粒界腐食への対策などがクルップ社から特許が出された。オーステナイト系ステンレス鋼は、その後、クルップ社以外の様々な研究者によっても改良が行われて様々な鋼種が生まれていった。1923年頃には、イギリスのトーマス・ファース・アンド・サンズ社が組成の最適化を模索した結果、クロム 18%・ニッケル 8%・炭素 0.2% 未満の基本組成とした「Staybrite(ステイブライト)」という商品を開発した。ステイブライトはICI社のアンモニア合成プラントで最初に採用された。ステイブライト販売以降、オーステナイト系ステンレス鋼の基本組成としてクロム 18%・ニッケル 8%(18-8)が定着することとなった。 クルップ社も、1922年に自社のステンレス鋼を「NIROSTA(ニロスタ)」として商標登録した。18-8のニロスタ鋼は海を渡り、アメリカ合衆国(米国)のクライスラー・ビルディング建設に使われる。1924年、クルップ社のシュトラウスは米国材料試験協会のシンポジウムでクルップ社のオーステナイト系ステンレス鋼を紹介した。建設主であったウォルター・クライスラーは、ビルの外観を金属で装飾することを望んでいた。この目的に適うようなニロスタ鋼を含むいくつかの耐食性金属材料が検討された結果、比較的高価であったものの、錆びづらく、汚れづらく、研磨による艶出ししやすいニロスタ鋼が採用されることとなった。 米国では、ニロスタ鋼に相当するステンレス鋼の生産実績は1927年までなかった。結局、クルップ社からライセンスを受けた3社が、ニロスタ鋼の板材・棒材を提供することとなった。1930年、クライスラー・ビルディングは完成する。4500枚のニロスタ鋼の薄板材がビル最頂部の段型尖塔の外装に使われた。クライスラー・ビルディングは、大量の18-8オーステナイト系ステンレス鋼が外装に初めて使われた世界初の建築物となった。1995年にクライスラー・ビルディングの検査が行われ、外装の状態も確認された。検査報告書では、風雨による洗浄も手伝い、沿海地域に建てられたにも拘らず、ニロスタ鋼は期待通りの性能を発揮し、良好な状態が保たれていたと報告された。
※この「普及と発展」の解説は、「オーステナイト系ステンレス鋼」の解説の一部です。
「普及と発展」を含む「オーステナイト系ステンレス鋼」の記事については、「オーステナイト系ステンレス鋼」の概要を参照ください。
- 普及と発展のページへのリンク