新プラトン主義の影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/03 07:22 UTC 版)
「サンドロ・ボッティチェッリ」の記事における「新プラトン主義の影響」の解説
新プラトン主義者たちは、この時期までに得られた古代文化を説得的方法で再評価することで、古代文化が包含する異教性を非難するキリスト教と、人文主義の運動の最初期の支持者との間に生まれた亀裂を埋めることができた。彼らは「倫理的模範として古代の美徳」を積極的に提案しただけでなく、キリスト教の理想と古典文化の理想とを一致させるに至った。これは、プラトンや、前キリスト教社会の深遠な宗教性を主張していた神秘主義の様々な風潮に依拠した結果であった。 表象芸術に与えたこれらの理論の影響は甚大であった。美および愛は新プラトン主義の芸術の中心的な主題となった。というのも、愛に突き動かされた人間は、物質世界の最下位から、精神の最高位にまで到達し得ると考えられたからである。このようにして、神秘主義は完全に復活し、聖的主題と同等の権威が与えられた。それ故に、世俗的な性格をもつ装飾は、大変普及したのである。 異教のオリンポス山の最も罪深き女神であったウェヌス(ヴィーナス)は、新プラトン主義者たちにより完全に再解釈され、芸術家たちにより最も頻繁に描かれる主題の1つとなったが、それは二面的な性格を持つものであった。一方は「天空のウェヌス」である。これは精神的愛の象徴であり、人間を宗教的苦行へと導くものである。他方は「地上のウェヌス」である。これは本能性の象徴、情熱の象徴であり、人を下位へと押し戻すものである。 よく描かれたもう1つの主題は、上位の原理と下位の原理との闘争であり(例えばウェヌスによりなだめられた軍神マルスや、ヘラクレスにより倒された怪物など)、人間の精神の連続した緊張状態、つまり美徳と悪徳との間で葛藤した状態を表した。すなわち、人間は素質的には善に向かう傾向にあるが、完璧な状態を保つことができなかったり、時に本能によって理性を失う危険に陥ったりする。こうした個々人の限界を自覚することに、新プラトン主義者の実存的なドラマは由来しており、一見到達不可能な状態を生涯にわたって追いかけることになるということに意識的なのである。 ボッティチェッリは新プラトン主義者たちの友人となり、この考えを完全に認めたため、彼らにより理論化された美を、自らのメランコリックで観照的な性格により、個人的な解釈加えながら、視覚的に表現することができた。ただし、その解釈は、同じ文化的環境と繋がりのあった他の芸術家たちにより提案された解釈とは必ずしも一致するものではない。
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