戸主権は絶対的か
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 21:34 UTC 版)
「ドイツ系の修正民法」に「満30歳以下の男、満25歳以下の女は戸主の同意なくしては結婚できない」という「封建的道徳臭」の強い規定が設けられたと主張する歴史学者もいるが、明治民法では戸主の同意は十分条件であって必要条件(絶対要件)ではなく、同意を欠いた婚姻・縁組も有効に成立することは、旧通説からも異論は無い(青山、玉城、平野、星野)。 明治民法776条 戸籍吏は婚姻が…750条第1項…其他法令に違反せざることを認めたる後に非ざれば其届出を受理することを得ず但し婚姻が…750条第1項の規定に違反する場合に於て戸籍吏が注意を為したるに拘はらず当事者が其届出を為さんと欲するときは此限りに在らず 同条は養子縁組にも準用される(同849条2項)。 旧法に於いては戸主の同意なければ到底婚姻又は養子縁組を為すことを得ずと雖も此の如くんば家族を束縛すること甚だしく各人の発達を力むべき今日の時世に伴わざるが故に新民法に於いてはこれを以って絶対の要件とせず。…第750条第1項の…場合に於いては唯離籍の制裁あるのみにして若し当事者が離籍を甘んずる以上は必ずしも戸主の同意を要せざるものとせり。 — 梅謙次郎『民法要義』750条、776条 離籍権の明文化は、明治初期の法制度では勘当の旧慣を許さない代わりに婚姻・縁組の成立に戸主の同意を絶対要件としていたのを緩和したもので、行使の結果戸主が扶養義務を免れるに留まるため、それが痛くない者には実効性が無く害は少ない、「戸主は絶対にその家族の行動を束縛すること能わず」との考えであった(梅)。さらに判例も、早くから戸主権は「絶対無限のものに非ず」と明言し(明治34年6月20日大審院判決)、明文に無いにもかかわらず離籍権濫用を制限する法理を発達させたことは平野も認める。 戸主権を父母の同意権と同一視して独法と関連付けた前記歴史学者の記述は後世の改訂版では修正削除されているが、依然類似の説明を採る教育者が多く、明治民法戸主権の「絶対」性を断定するものも散見される。 旧民法人事編246条 家族は婚姻又は養子縁組を為さんとするときは年令に拘らず戸主の許諾を受く可し 明治民法772条 1.子が婚姻を為すには其家に在る父母の同意を得ることを要す但男が満30歳女が満25歳に達したる後は此限りに在らず なお、人250条により同意権は骨抜きになっていたとも主張されており(星野)、梅の言うように旧民法で戸主の同意無き婚姻・縁組が「到底」できなかったかは問題である。 戸主は其身分に応じて家族を扶養教育する義務があるのでありますから、そこへ持って来て家族の者が年が長じて嫁を取ったり養子を貰ったりしてそれでお前戸主であるから養へと云ふことでは困る、併し何処迄も独身で居なければならぬと云ふことはありませぬからそれは働きのあるものはどうでも宜しいが其代り戸主の厄介にならぬで一家を新立すると云ふことになったら宜からうと云ふのが人事編の第246条の理由であったと記憶して居ります。 — 磯部四郎、第129回法典調査会
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