懲戒解雇の場合の退職金
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 02:19 UTC 版)
多くの企業の就業規則では、懲戒解雇により退職する場合には退職金を支給しない旨を規定している。もっとも、就業規則に規定があれば常に全額不支給となるわけではなく、退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される。 どのような行為が労働者にあれば「永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為」と判断されるかは個別の事情による。 営業所の責任者であって同営業所の運営の衝に当たっていたところ、突如として退職届を提出し、その後は当該営業所の運営を放置して残務整理せず、その後任者に対しても何らの引継をしないまま退職するなどの行為をしたものについて、「その行為は、責められるべきものであるけれども、永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為に該当するものと解することができない」として退職金の不支給を認めなかった(日本高圧瓦斯工業事件、大阪高判昭和59年11月29日)。 痴漢撲滅に取組んでいた鉄道会社の従業員が休日に他社の鉄道の車内において痴漢行為(迷惑防止条例違反)で逮捕されたものについて、「本件行為が相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえない」「他方、本件行為が職務外の行為であるとはいえ、会社及び従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいる当該鉄道会社にとって、相当の不信行為であることは否定できないから、本件がその全額を支給すべき事案であるとは認め難い」として、支給額を本来の退職金の支給額の3割とした(小田急電鉄事件、東京高判平成15年12月11日。なお一審では全額不支給を認めていた)。 自主退職直後に競合他社の常務取締役に就任し、辞表提出直前に顧客データを他社に移動し、さらに退職直前にコンピューター内の顧客データの一部を消去し、かつ残るデータに消去したデータを混入する又はその可能性が疑われるような行為をしたことが判明した事案について、「懲戒解雇事由に該当ないし匹敵するものであり、かつ、その背信性は重大であると認められる」として当該労働者からの退職金請求は権利の濫用として認めなかった(アイビ・プロテック事件、東京地判平成12年12月18日)。 休日に酒気帯び運転をして、物損事故を起こし現場から逃走し同日逮捕されて罰金刑に処せられたために懲戒解雇された事案について、懲戒解雇を有効としたうえで退職金の支給額を本来の退職金の支給額の3割とした(日本郵便事件、東京高判平成25年7月18日)。 弁護士を通して退職届を提出し、業務引継ぎの問い合わせも弁護士を通して書面で行った労働者に対し、対面の引継ぎを行わなかったこと等を理由として懲戒解雇した事案について、懲戒解雇事由に該当せず勤労の功を抹消するほどの著しい背信行為とは評価できないと判断し、退職金の全額支払いを命じた(インタアクト事件、東京地判令和元年9月27日)。
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