憲法違反・条約違反との主張と論拠
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「差額関税制度」の記事における「憲法違反・条約違反との主張と論拠」の解説
この差額関税制度は世界でも稀な制度であり、現在では唯一日本国の豚肉輸入にのみ存在する。ウルグアイラウンド農業交渉において、貿易ルール上で禁止されている非関税障壁である可変課徴金(Variable import levy)・最低輸入価格制度(Minimum import price)であるとして、欧米各国より撤廃を求められたが、日本の農業交渉担当官は巧みに切り抜けて存続した。これに関して、元大蔵省官僚(元東京税関長)の志賀櫻弁護士は、同制度はWTO設立時の国際条約であるマラケシュ協定違反である非関税障壁(最低輸入価格制度)であるとして、国際条約の遵守をうたった日本国憲法第98条2項に反した違憲制度であると述べている。 図1 現行の差額関税制度(マラケシュ協定発効1995.1.1以降、数値は2012.3.31現在) 現行の差額関税制度(部分肉)では、 ①輸入価格が分岐点価格(524円/キログラム)以上の豚肉には4.3%の従価税 (関税額=輸入価格 x 4.3%) ②輸入価格が524円〜64.53円/キログラムでは基準輸入価格(546.53円/キログラム)との差額関税 (関税額=基準輸入価格546.53円-輸入価格) (参考) 従価税換算税率 4.3%〜746.94% ③輸入価格が64.53円以下ではキロ当たり482円の従量税となっている。(関税額=482円) (参考) 従価税換算税率 746.94%〜∞ ちなみに差額関税の額(部分肉)は、例えば輸入価格が200円/キログラムの豚肉であれば、差額関税は346.53円/キログラム (546.53 - 200)となり、実に173%の高率関税となる。なお分岐点価格(524円)では、“従価税(524 x 4.3%)=差額関税(546.53 - 524)”となるため、関税額が最小(22.53円)になる。“図2マラケシュ協定発効以前の差額関税制度”との違いは、輸入価格が0円〜64.53円/キログラムのところに従量税482円/キログラムがあるかないかだけである。しかし1キログラム当り64.53円以下などという極端に安価な豚肉は、どの国でも有り得ないため、従量税での輸入実績は未だかつて全くゼロである。つまり、図1と図2は実質的には同じものである。このことが、志賀弁護士が主張する「現行の差額関税制度は、マラケシュ協定で禁止された“以前の差額関税制度(図2)”と全く同じであるため、国際条約違反であり違憲である」の論拠となっている。 図2 マラケシュ協定発効以前の差額関税制度(1994.12.31以前、数値は2012.3.31現在のものにアジャストしている) 1994年以前の差額関税制度(部分肉)では ①輸入価格が分岐点価格(524円/キログラム)以上の豚肉には4.3%の従価税 (関税額=輸入価格 x 4.3%) ②輸入価格が分岐点価格以下の豚肉には、基準輸入価格(546.53円)との差額関税 (関税額=基準輸入価格546.53円-輸入価格) この当時、日本の差額関税制度は、ウルグアイラウンド合意で国際的に禁止された非関税障壁(可変課徴金・最低輸入制度)であったため、欧米各国から撤廃を求められた経緯がある。なお、農水省自身も差額関税制度が条約に違反している事を十分に認識していたと思われ、2000年出版の「WTO農業交渉の課題と論点」参考4 個別品目別に見た農業交渉上の論点(150ページ)において「差額関税制度を廃止し関税化した」と明確に述べた上で、「差額関税制度の実質的な機能は維持。」と述べている。この点に関しても志賀弁護士は、農水省の欺瞞行為であると主張している。当時の基準輸入価格、分岐点価格、従価税は、現在とは異なっているが、説明が煩雑となるため、便宜上全て現行(2012.03.31以降)の数値に置き換えている。 なお、日本の最高裁判所は豚肉差額関税を憲法違反とする上告審において、2012年9月4日に「差額関税制度の違憲性について、一審(千葉地裁)、二審(東京高裁)において争われなかった事を理由に憲法判断を避け」上告棄却とした。
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