感染機序
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/10 04:30 UTC 版)
微生物が感染すると、多形核白血球(PMN)は血管上皮をすり抜けて血流中から感染の起きている組織へと脱出する。そこで直ちに最初の免疫応答としての仕事をはじめ、侵入者を貪食する。この過程で炎症が起きる。活性化されたPMNはケモカイン(特にIL-8)を分泌して他の顆粒球を呼び寄せその貪食作用を活性化させる。L. majorはPMNのIL-8分泌をさらに増大させる。これは不合理に感じるかもしれないが、この現象は他の偏性細胞内寄生体でも観察される。この手の微生物にとって、細胞内で生き残る方法は何通りかある。驚くことに、アポトーシスを起こした病原体を生きた病原体と一緒に打つと、生きた病原体だけを打った場合よりも爆発的な病態を示す。死んだ寄生虫の表面に通常アポトーシスを起こした細胞が持っている抗炎症シグナルであるフォスファチジルセリンを晒すと、L. majorは呼吸バーストを止め、同時に打った生きた病原体の殺傷分解は達成されない。リーシュマニアの場合、子孫はPMNの中では作られないが、この方法で生き残り感染部位に自由に居続けることができる。 前鞭毛型はさらにリーシュマニア化学遊走因子 (Leishmania chemotactic factor; LCF) を分泌し、好中球を活発に誘引するが、しかし単球やNK細胞のような他の白血球は誘引しない。さらにリーシュマニアが存在するとPMNによるインターフェロンガンマ誘導タンパク質10(IP10)の産生は止められ、NK細胞やTh1細胞の誘引による炎症反応と防御免疫反応が遮断される。最初の宿主であるPMNがACAMP (apoptotic cell associated molecular pattern) という「病原体がいない」というシグナルを提示しているため、この病原体は貪食作用の間も生存したままである。 好中球の寿命はとても短く、骨髄から出て血流中を6~10時間循環したのち、自発的にアポトーシスを起こす。病原微生物はそれぞれ異なる戦略で細胞のアポトーシスに影響を与えることが報告されている。L. major は caspase 3 の活性化を阻害することで、好中球のアポトーシスを遅らせ寿命を2~3日引き延ばすことができる。この寄生虫の最終的な宿主はマクロファージで、感染部位にたどり着くのに通常2~3日かかるため、この寿命の延長は感染の進展には非常に有利である。またPMNによるMIP-1αとMIP-1ß (macrophage inflammatory protein) というケモカインの産生を誘導してマクロファージを呼び寄せる。 好中球が含む有害な細胞成分やタンパク質分解酵素から周囲の組織を守るために、アポトーシスを起こしたPMNはマクロファージによって静かに除去される。死にゆくPMNは「食べて」信号、すなわちアポトーシス中細胞膜の外側に輸送されるフォスファチジルセリンを提示している。遅延されたアポトーシスのためPMNに残存している原虫はマクロファージに取り込まれるが、これは全く生理的な過程であり炎症反応ではない。この「静かな食作用」という戦略は原虫にとって次のような利点がある。 アポトーシスした細胞の取り込みは、マクロファージの殺傷活性を抑え、病原体の生存につながる。 アポトーシスした細胞内部の原虫は見えないので、PMN内部の病原体はマクロファージ表面の受容体と直接接触しない。したがってマクロファージによる免疫の活性化も起こらない。
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