性能差と生産性・整備性と
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/05/22 03:42 UTC 版)
前述の場合は極端な性能と極端な量的格差を例にとったものではあるが、しばしば実際の戦略の上では「性能を重視して生産性を犠牲にする」のか、あるいは「生産性や扱い易さを重視して性能を低めに設定する」のかで運用を含む戦術や、結果である戦局に影響が出る。 実史における一つの例としては、工業生産力に勝るアメリカ軍が導入したM4中戦車が辿った歴史が示唆に富んでいる。この中戦車は、大量生産を前提として、戦車開発に先んじ強力な戦車を多数保有するナチス・ドイツ軍を数で圧倒することを目指した。一方、資源的に限界のある日本軍に対しても太平洋戦争で導入され掃討に運用されたため、威力を発揮した。 しかし、工業製品としては工業大国の経験が生かされ完成されたもので、車両としては故障も少なく信頼性や稼働率も高かったが、肝心の兵器としてはアメリカ軍の戦車戦に関する決定的な経験不足もあって、重厚長大化していた(ある意味超兵器に近いほど強力な)ティーガーIを代表とするドイツ軍重戦車から一方的に損害を与えられるなど、極端な戦力差を発生させ、実際問題としてドイツ軍が主力としていたIV号戦車との戦力差でさえIV号戦車1に対しM4中戦車5で互角という事態にも及んだ。また、初期型の軽量な砲の打撃力不足も致命的となった。 このため、重砲や戦闘爆撃機といった支援火力を充実させることで戦車の性能差を補うと共に、開発段階での改良も続けられた。当時の前線の兵士は、形振り構わぬ創意工夫と現地改造で生存性を高めようとあらゆる手段を試みたことも記録に残されている(→M4中戦車#武装)が、ドイツ軍がさらに高性能なV号戦車パンター中戦車を投入したこともあり、M4中戦車はついにドイツ軍戦車との戦力差を克服することはできず、その差は米軍将兵の死傷によって埋められた。 一方、工業製品として整備性・互換性を重視した結果、M4中戦車は改良型や派生車種を数多く生み出すこととなり、派生型の最終形態に位置するスーパーシャーマンとして1980年代まで現役として使用され続け、更にはその車体を流用した派生軍用車両も存在し、他に類を見ない長命なシリーズとなった。 一概に「高性能な兵器で少数精鋭を目指す」のか「信頼性や生産性に優れる兵器により数で圧倒する」かのどちらを選択するかは、近代から現代にかけての戦争では国家総力戦の様相を呈するため、その国の政策レベルでの思想の違いにもより様々である。
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