心理療法の欠如と行き過ぎた多剤投与
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 02:50 UTC 版)
「精神医学」の記事における「心理療法の欠如と行き過ぎた多剤投与」の解説
「日本の精神保健#心理療法の欠如と行き過ぎた多剤投与」も参照 軽度の抑うつの場合や、向精神薬を用いた薬物治療などの対症療法に抵抗がある場合、あるいは心因性精神疾患など薬物の効果が現れにくい場合や、発達障害・慢性化精神疾患など急激的な改善が期待されにくい場合を中心に、精神療法や心理カウンセリング、または作業療法や言語療法など、化学的アプローチではない治療法を患者が希望することがある。 また、特定の精神疾患患者に限らず、薬物治療などの対症療法と並行して、一定の診療時間を確保した精神療法や心理カウンセリングなどの原因療法により、自分の認知や性格の傾向を見つめ直したいと患者が希望することも多い。しかし現実には、精神科医だけでなく医師全般が、特に外来患者へ対応する場合、限られた時間内に多数の患者へ診療を行うことが迫られるため、いわゆる「3分診療」「5分診療」のみに終始することが多いとされ、中でも精神科医療においては、上記のような操作的診断基準に関わる問題や、数分間では充分な精神療法などを行うことが難しいという問題などから、短時間の診療形態には問題があると指摘されている。 また、精神療法は主に臨床心理士が担当することが多い現在の臨床現場において、実践的な精神療法を担える精神科医は現実的には少なく、そのような専門性を持った精神科医もおらず臨床心理士・作業療法士・言語聴覚士などにも人件費を割かない医療機関では、経営上薬物治療のみを行っている所も多い。 このような現状から、2010年には精神療法の一種である認知療法・認知行動療法に関して、「入院中ではない患者」について「当該の療法に習熟した医師」が「30分以上を診療に要した」場合「16回までに限り」保険適用になると診療報酬が改定され、注目された。しかし、上記のように、臨床現場において精神療法は主に臨床心理士が担当することが多く、その一種である認知療法・認知行動療法に「習熟した」精神科医を含む医師の絶対数が少ないこと、および、そもそも臨床心理士は専門職大学院等の指定大学院修了を課す高度な専門資格であるものの、現状では民間資格であるため、診療報酬規定に明記できないことなど、精神科医療の本質的な問題は棚上げにされたままの制度改定との指摘もある。 一方、多くの精神科医らが所属する日本精神神経学会・日本精神神経科診療所協会・精神科七者懇談会は、2005年当時には「臨床心理士及び医療心理師法案」をめぐって、それまでは両資格の法案一本化に合意し推進していたにも関わらず、国会上程の土壇場で反対に回るという一件があった。しかし近年は日本心理学諸学会連合らからなる心理職国家資格化推進三団体との意見交換会に臨むなど、精神科医療にとっての転換点である心理職国家資格創設に向けて肯定的に関わっており、2015年9月には国家資格である公認心理師の資格を定めた公認心理師法が成立し、2017年に施行された。
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