導入された遺伝子と形質転換体の特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/17 07:00 UTC 版)
「青いバラ (サントリーフラワーズ)」の記事における「導入された遺伝子と形質転換体の特徴」の解説
アントシアニンは赤から青までの色調を示すフラボノイド系の色素である。アントシアニンのアグリコンをアントシアニジンと呼ぶ(それらの化学構造に関しては「アントシアニン」を参照)。なお、フラボノイドの生合成系はリンク先とアントシアニンの生合成系もリンク先を参照すること。アントシアニジンのうちのデルフィニジンを基本骨格とするアントシアニンが特に青色発色に関与しているとされる。しかし、デルフィニジン系のアントシアニンがあれば、青くなるわけでもない。また、バラの赤色色素であるシアニジン系アントシアニンと類似のものが、ヤグルマギクやヒマラヤの青いケシの青色色素となる場合もある。 西洋アサガオ・ヘブンリー・ブルーの開花中の花弁などの特殊な例を除いて植物の液胞内のpHは酸性である。アントシアニンは強酸性下では赤色を呈する。又、中性に近くなると赤紫色になる。そして、すべてのアントシアニンはアルカリ側では青色になる。このような一般的特徴を持つアントシアニンを青色に発色させる機構には様々なものがある。アントシアニジンの種類、アントシアニンの存在する植物細胞中の液胞のpH、金属イオンの種類や量、分子間またはアシル化による分子内でのコピグメント、超分子形成などが様々に関与しあっている。大きく分けて三種類あるアントシアニジンの中でもデルフィニジン系のアントシアニンは比較的酸性側でも青色である。青いバラの分子育種においては、アントシアニジンの種類の変化とアントシアニンのアシル化、母本に用いられたバラの液胞のpHが弱酸性であることによって青色を発色させている。 バラには、デルフィニジン生合成に関与する酵素フラボノイド3',5'-ハイドロキシラーゼ (F3'5'H , ) がない。そのため、デルフィニジン系のアントシアニンを合成できない。そこで、バラにおいてもデルフィニジン系のアントシアニンを合成させれば、青いバラが育種できるのではないかと考えられ、パンジーからF3'5'HのcDNAを単離して導入された。 サントリーが開発した二種類の青いバラ(WKS82/130-4-1, OECD UI: IFD-52401-4 および WKS82/130-9-1, OECD UI: IFD-52401-9)には、F3'5'HのcDNA以外にもトレニアに由来するアントシアニン5-アシル基転移酵素 (A5T , ) のcDNAが導入されている。これは、バラにおいてデルフィニジンから生成されるデルフィン(デルフィニジン 3, 5-ジグルコシド )を安定化させることをねらったものである。その産物の化学構造は、リンク参照。その他、形質転換体の選択マーカー遺伝子としてアミノグリコシド系抗生物質カナマイシン耐性化遺伝子も導入されている。なお、WKS82/130-9-1に関しては、IFD-52901-9とIFD-52401-9と異なるIFDの番号が双方とも公文書で見受けられる。これらの形質転換バラに関しては、に詳しく出ている。 それによると、母本に用いられた品種名はWKS82(ケイハブルー)で、花色は赤紫色のハイブリッド・ティー系四季咲きの大輪花である。母本の花色が赤紫色であることから分かるように液胞のpHは比較的中性よりである。そのため、合成されたデルフィニジン系アントシアニンが青紫色を呈したと考えられる。分子育種された二種類のバラ (WKS82/130-4-1およびWKS82/130-9-1) において導入された外来遺伝子は、両者とも花色に最も影響を与える最外層であるL1層にしか存在しない周縁キメラであり、L2層(この部分は母本のWKS82のまま)に由来する花粉によって外来遺伝子が拡散する可能性は極めて低いそうである。 なお、育種における母本の選択のストラテジー、WKS82を含む様々なバラの花弁のpH、アントシアニジンの種類や含量、コピグメントとしてのフラボノイドであるフラボノールやフラボノンの存在および量、アントシアニンのアシル化の程度、WKS82以外のものにも同じ遺伝子カセットを導入した場合の花色の写真、などはこの文献に詳しくでている。また、バラの内在性のジヒドロフラボノール-4-還元酵素 (DFR) をRNAiによって抑制し、アヤメのペラルゴニジン合成に特異的に関与できないDFRのcDNAをF3'5'H cDNAとともに導入し、デルフィニジン含量を増加させた結果、より青みの増したバラができたことも報告している。
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