外送理論による視覚の仕組み
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「外送理論」の記事における「外送理論による視覚の仕組み」の解説
外送理論では、眼からの流出物が主要な役割を果たす。アプレイウス(紀元2世紀)は、『弁明』第15章に同時代の視覚論として原子論の他に、3種類の外送理論を挙げる。 眼からの放出物が視覚対象まで届き、その情報を獲得する。 眼からの放出物は、視覚対象と眼の間の空気(あるいは水)に作用し、媒質を変容させ、視覚対象からの像の流入を媒介させる。 プラトンの視覚論(後述)。 1の例としては、エウクレイデス(ユークリッド)やプトレマイオスなどの幾何的な理論家、ピタゴラス派、そしてエンペドクレスが挙げられる。眼から光線のような射線が放出されるが、それが対象に達するだけで視覚が成立するわけではなく、物体から流出する何か(プトレマイオスの場合は「色」)が眼に届いて視覚が成立するとする場合が多かった。エウクレイデスは細い射線(「視線」)が円錐状に放出するとし、「視線」と「視線」の間には隙間を設定して視覚の明瞭さの説明に用いたが、プトレマイオスは「視線」の間の隙間を認めない。 2の例としては、ストア派やガレノスの「プネウマ」の放出の理論がある。彼らの理論では、プネウマは空気などの媒質に作用し、媒質が眼の延長として感覚器官のように働くとする。この変容した媒質は、対象物の像を運ぶ他、距離をも感じる力をもつ。例えば9世紀のガレノス派の医師フナイン・イブン・イスハークは2のタイプを支持して1のタイプを非とした。天体のような遠方に届く放出物を考えることは困難だからである。一方、2の理論では放出物が届く必要はなく、空気の変容が次々と伝わって視覚対象に行きつけばよいとした。 光は視覚の成立に必要な条件とされることが多かった。上記の1のタイプの論者のプトレマイオスは、視覚対象が照らされている必要があるとする一方、2の論者であるストア派やガレノスは、空気が活性化するために、プネウマに加えて光が必要であるとした。 ガレノスやストア派の理論は先行するプラトンの理論との類似が指摘されている:プラトンによれば、眼の放出物と太陽光が融合して、物体に働きかける。この働きかけによって生じた物体からの流出物は、「眼からの放出物+太陽光」と相互作用し、「色」が生じて眼に流入する。眼からの放出物も対象からの流出物も、原子から構成されていて、それらの形状が相互作用を定めている。ストア派の理論もプラトンの理論も、ともに「眼からの放出物+太陽光」の融合物を考える点で類似しているが、前者ではそれが円錐状に拡散するのに対し、後者では視覚対象に向かって真っすぐに伸びてゆく。 いずれの外送理論でも、触覚とのアナロジーがしばしば持ち出されて、眼からの放出物は盲人の杖に喩えられた。杖は一本ではなく多数同時に用い、対象物の表面を探る。ただし、プトレマイオスやガレノスなどの外送理論では、(内送理論に立つ)アリストテレスの知覚や認知の議論を取り入れて多少修正され、触覚との違いを明瞭に述べ、眼で「色」を受け取ったのち、心理学的なプロセスを経て視覚が成立する。例えばプトレマイオスの錯視の分析においては、錯視の原因をいくつかの階層に分類して詳しく論じている。
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