増大係数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/19 15:07 UTC 版)
機体規模は、軍用機設計の基礎計画段階において、航続距離要求と武装重量から計算される。規模に関係する増大係数は二段階に分けて計算が行われる。 1. ブレゲーの航続距離算出式によって必要な燃料重量比を導きだす。ただし、この式はレシプロ機にのみ適用可能である。 R = 75.0 × 3.6 × η p b × L D × ln ( W i W f ) {\displaystyle R=75.0\times 3.6\times {\frac {\eta p}{b}}\times {\frac {L}{D}}\times \ln \left({\frac {Wi}{Wf}}\right)} ただし、 R {\displaystyle R} :航続距離(km) η p {\displaystyle \eta p} :プロペラ効率 b {\displaystyle b} :燃料消費率(kg/HP/hour) L D {\displaystyle {\frac {L}{D}}} :巡航揚抗比 W i {\displaystyle Wi} :巡航開始重量 W f {\displaystyle Wf} :巡航終了重量 大体の離陸重量に対する燃料比率は W i − W f W i {\displaystyle {\frac {Wi-Wf}{Wi}}} となる。 ジェット軍用機、それも特に戦術機の場合は運用高度によって燃費が大幅に異なることから上記のような単純に距離という形で航続性能を要求されることは稀であり、大抵は飛行パターン、飛行高度、速度を指定したミッションプロファイルという形式で(以上を大雑把に言えばCAP任務にHI-HI-HI、地上攻撃任務でHI-LO-HI等の指定、待機時間、急行速度、目標捜索時間等が含まれる)航続性能を要求され、エンジンの出力性能、燃費と見比べながら燃料重量比の見積もりをつけることになる。 2. 下記「増大係数」の式に武装重量と燃料重量を入れると、機体の離陸重量が求められる。増大係数の元々の意味は「性能を保持したまま搭載量(武装、あるいは燃料)を増やすには、全備重量がどれだけ増えるか」を示したものである。 W T O = W W E P 1 − W S T R W T O − W P R O P W T O − W S Y S W T O − W F U E L W T O {\displaystyle W_{TO}={\frac {W_{WEP}}{1-{\frac {W_{STR}}{W_{TO}}}-{\frac {W_{PROP}}{W_{TO}}}-{\frac {W_{SYS}}{W_{TO}}}-{\frac {W_{FUEL}}{W_{TO}}}}}} ただし、 W T O {\displaystyle W_{TO}} :離陸重量。 W W E P {\displaystyle W_{WEP}} :武装の重量。機関砲や爆弾、機銃弾などの重量。 W S T R W T O {\displaystyle {\frac {W_{STR}}{W_{TO}}}} :構造重量比。戦闘機のように高G運動を行ったり急降下制限速度を高める場合は構造重量比を増して頑丈に作る必要がある。強度を維持しつつ構造重量比を減少させるには新素材や構造上の進歩が必要である。構造重量比を浮かせる方法としては他に、増槽の導入があげられる。空戦等の高G機動に入る前に増槽を投下するという運用を定める事で、高G機動時の機体重量を限定し構造強度要求を緩和することができる。 W P R O P W T O {\displaystyle {\frac {W_{PROP}}{W_{TO}}}} :推進系統重量比。加速性能、上昇性能、あるいは高高度性能を高くする場合はより推進系統の比率を高める必要がある。技術上の進歩により出力重量比が向上すればこの比率を抑えることができる。 W S Y S W T O {\displaystyle {\frac {W_{SYS}}{W_{TO}}}} :システム系統重量比。油圧や操縦系統、脚などの重量がここに含まれる。 W F U E L W T O {\displaystyle {\frac {W_{FUEL}}{W_{TO}}}} :1.で算出した燃料重量比。航続距離要求から必然的に決定される。 この式は元々 W T O = W W E P + W S T R + W P R O P + W S Y S + W F U E L {\displaystyle W_{TO}=W_{WEP}+W_{STR}+W_{PROP}+W_{SYS}+W_{FUEL}} を変形した物である。 戦闘機においては構造重量比が約0.35~0.25、推進系統重量比がレシプロは約0.4でジェットが約0.2、システム系統重量比が0.1となるのが一般的である。 構造重量比、推進系統重量比、システム系統重量比が時代が変遷してもほぼ一定であることから、軍用機の規模は航続性能と武装重量でほぼ決まってしまうため、この二つが計画の根幹をなすものとなる。
※この「増大係数」の解説は、「軍用機の設計思想」の解説の一部です。
「増大係数」を含む「軍用機の設計思想」の記事については、「軍用機の設計思想」の概要を参照ください。
- 増大係数のページへのリンク