地球外天体の衝突
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/29 18:01 UTC 版)
メキシコのチクシュルーブ・クレーターを証拠に白亜紀末の大量絶滅は地球外天体の衝突が主要因とされるが、これと同様に小惑星あるいは彗星の衝突が三畳紀末の大量絶滅を引き起こしたという仮説もある。しかし、今のところT-J境界と正確に一致する年代の十分な大きさの衝突クレーターは発見されていない。 にも拘わらず、後期三畳紀には複数の衝突が起きており、確認された中では中生代で2番目に大規模な天体衝突もあった。ケベック州のマニクアガン湖は地球上に存在する目に見える衝突クレーターでは最も大型のものの1つであり、直径は100キロメートルに達する。Olsen et al. (1987) で科学者らはこのマニクアガン・クレーターを三畳紀末の大量絶滅と初めて結び付け、当時はクレーターの形成年代は大まかに後期三畳紀と考えられた。より正確な放射年代測定が Hodych & Dunning (1992) で行われ、マニクアガン・クレーターはT-J境界の約1300万年前にあたる約2億1400万年前に形成されたことが示された。このため、マニクアガン・クレーターが正確にT-J境界に相当する絶滅の要因である可能性は低い。とはいえマニクアガンの衝突は地球に広く影響を及ぼしており、2億1400万年前の衝撃石英の噴出物ブランケット(英語版)が遠く離れたイングランドや日本の岐阜県でも発見されている。後期三畳紀のカーニアン - ノーリアン境界は明確な時代と実際に絶滅が起こったか否かが議論されているため絶滅と衝突を対応させることは難しいが、マニクアガンの衝突が同境界の小規模絶滅の要因となった可能性はある。Onoue et al. (2016) では代わりにマニクアガンの衝突が放散虫・海綿動物・コノドント・三畳紀アンモナイトに影響が及んだ中期ノーリアンの海洋絶滅の要因であると提唱された。さらに、マニクアガンの衝突はT-J境界で最大規模の絶滅を迎えたコノドントと三畳紀アンモナイトがそれ以前に徐々に衰退していたことの一端を担った可能性もある。磁気年代と同位体年代の食い違いで不確かではあるものの、アダマニアンとレヴエルティアンの陸上脊椎動物相ゾーンの間の境界には四足動物はじめ動物と植物の絶滅と変遷があり、これもおそらくマニクアガンの衝突に起因する。 他の三畳紀のクレーターはT-J境界に近いが、マニクアガン湖よりも遥かに小型である。フランスの侵食されたロシュショール・クレーター(英語版)は2億100万年前(誤差200万年)と最も新しい年代のものであるが、直径は25キロメートル、侵食前でも最大50キロメートルで、生態系へ影響を与えるには小さすぎる。三畳紀のクレーターであることが確認あるいは推定されている他の衝突クレーターには、ロシア東部の幅80キロメートルのプチェジ=カトゥンキ・クレーター(英語版)(ジュラ紀の可能性あり)、カナダのマニトバ州に位置する幅40キロメートルのセイント・マーティン・クレーター、ウクライナの幅15キロメートルのオボロン・クレーター(英語版)、アメリカ合衆国ノースダコタ州の幅9キロメートルのレッド・ウィング・クレーター(英語版)がある。Spray et al. (1998) では、マニクアガン、ロシュショール、セイント・マーティン・クレーターが同じ緯度に分布して見え、オボロンとレッド・ウィング・クレーターがロシュショールおよびセイント・マーティン・クレーターと平行な弧をなす、という興味深い現象が指摘されている。Spray らは三畳紀の複数の衝突イベントは巨大な小惑星あるいは彗星が砕けて同時に複数個所へ衝突したものであるとの仮説を立てた。このような衝突は現在でも確認されており、1994年にはシューメーカー・レヴィ第9彗星が断片化して木星に衝突している。しかし三畳紀に同様のことが起きたという仮説はあまり支持されていない。Kent (1998) ではマニクアガンおよびロシュショール・クレーターは磁気極性の異なる磁気に形成されたとされており、それぞれのクレーターの放射年代測定ではそれぞれの衝突は数百万年離れた時期に起きたことが示されている。
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