地域偏在による不足
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/30 14:59 UTC 版)
日本の医師不足を語る際に僻地医療という切り口があるが、北海道の釧路市のように県庁級都市であっても深刻な医師不足状況にあるという問題にも着目しなければならない。東北海道は釧路、根室、十勝、網走を包括するエリアで面積にして四国島の二倍、人口100万を数える地域である。ここでが釧路市のような都市部でも医師が足りない。日本で最も対人口医師数の多い地域でも先進国平均には達していないが、新医師臨床研修制度の問題で僻地に派遣されていた医師が医局人事により引き上げとなり、新たな補充もなく、僻地から医師がさらにいなくなるケースが生じている。そのため各病院は自力で医師を捜すことを強いられるようになった。しかし、僻地と呼ばれる病院に自主的に勤務するインセンティブはなく、結果として、地域偏在による医師の不足が顕在化し始めている。 都会の病院や地方の大病院、有名病院の方が症例数も多く、新たな技術を常に学ぶことができるなど自らのキャリア形成につながることから、やり甲斐があると思う医師が多い。居住する地域の利便性、子どもの教育環境を考え、都会の病院を選択することもある。また僻地の勤務状況によっては、ほぼ24時間365日の拘束をされる勤務を要求する病院もあり、「体が持たない」と、辞めるケースもみられるようになっている。 さらに、一部の地方病院では非常に高額な報酬を設定して医師を招聘するなどの試みが行われているものの、ときとして、求めに応じた医師に対して中傷めいた発言が市議やマスコミからなされる。こうした社会的要因もまた、医師の就業環境を低下させ、医師の着任や定着を阻む要因となっている。たとえば、2006年に尾鷲総合病院に迎えた産婦人科医師との交渉が決裂した原因について、尾鷲市の伊藤允久市長(当時)は、報酬額の折り合いではなく医師の高額報酬に対する中傷が原因との見解を示し、当該の医師もそうした中傷を耳にして「残る気持ちをなくした」と述べた。 地方同士で比較した場合、県民経済計算で福島県は大分県のおよそ1.5倍の経済規模を持ち、県民総生産も県民所得も医師の平均給与も福島県の方が大分県より高い。東京から2時間以内の福島は、大分より都会へのアクセスが良く、利便性も高い。しかし、人口10万人あたりの医師数は大分県の方が多い。このように、必ずしも経済、利便性、医師給与などだけでは説明の付かない地域格差もある。 医籍登録は都道府県単位で行われており、医師は登録変更をしない限り県境を越えて隣県で保険診療が出来ないという制度上の問題もある。
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