商品としての短所
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/28 04:38 UTC 版)
上述の通り、有坂銃はボルトアクション小銃としては極めて堅牢な構造と多重の安全機構を持ち、モーゼルのM98アクションと並んでボルトアクションの横綱と評される事も多いが、上述の技術的特徴が表裏一体で(モーゼルM98アクションを下敷きとした)現代的な設計のボルトアクションと比較した際の有坂銃の短所ともなっている。 コックオン・クロージング方式は薬室開放時の槓桿の操作力の低減の面では、モーゼルのコックオン・オープニング方式と比較して分があるが、閉鎖時の操作力はコックオン・オープニング方式と比較して大きな力が必要となり、開閉操作のスムーズさにもやや欠けるとされ、不発の際の素早い再コッキングも行えない短所がある。撃茎を覆い隠してしまう撃茎駐胛による2ポジション式安全装置は、頑丈ではあるものの射撃場においてはコッキングの状態を外見から目視確認できない安全上の不安要素となり、モーゼルの3ポジション式旗安全器のように撃針を固定した状態での薬室開放が不可能な為、極めて低い確率ではあるが脱包の際の薬室解放前の引鉄の誤操作、或いは薬室開放中の逆鈎の破損に起因する暴発を阻止できない欠点がある。現在コスト上の理由で2ポジション式を採用する場合、豊和M1500(ウェザビー・バンガード)やレミントンM700のように、「逆鈎を固定する方式」としてボルトの固定機能を廃してでも薬室解放時の安全性を優先するのが基本である。 避害筍による引鉄の安全機構は、上記の2ポジション式安全装置の欠点をある程度補う効果こそ期待できるものの、時として撃茎駐胛の安全解除(左回転)の際に槓桿が動いて発射が不能となる不具合をもたらし、運用上もコックオン・オープニングの多くの銃で可能な「引金を引きながらゆっくりボルトを開閉する事で、撃針を安全にデコッキングする」操作が行えず、必ず空撃ちか発射を行わねばならない。モーゼルを始めとするコックオン・オープニング式は、コックオンのカムの構造上、たとえ槓桿が多少上がった状態で撃針を落としたとしても、撃針がカムに衝突して槓桿を強制的に閉鎖方向へ動かす動作を行う為、避害筍のような安全対策を採る必要がない。また、「発射瞬時の開放不能」という機能性に関しては、53式信号拳銃などの元折式の鉄砲で発射瞬時に完全解放に至る事故事例が数例あり、1980年代初頭までのウィンチェスターブランドの散弾銃ではこうした事故を防ぐ対策が採られていた例もあったが、元より極めて発生頻度の低い事例である為に、今日販売される民生銃器ではこうした構造はほとんど省略されている。 極めて分厚い薬室と銃身のクロームメッキは、制式採用後100年近くを経過した現在でも良好な射撃性能を発揮する要素の一つとはなってはいるものの、(兵士の寿命と一体である事を前提とした)消耗品としての軍用銃、(短いライフサイクルでのモデルチェンジを前提とした)商品としての民生小銃としては過剰性能でもある。また、純粋な静的射撃用ライフルとしてはライフリングの均一性を損ねる要素となるため、銃身内へのクロームメッキは忌避される事が多い。
※この「商品としての短所」の解説は、「有坂銃」の解説の一部です。
「商品としての短所」を含む「有坂銃」の記事については、「有坂銃」の概要を参照ください。
- 商品としての短所のページへのリンク