商品と貨幣
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 01:55 UTC 版)
資本論の冒頭部分を日本共産党中央委員会付属社会科学研究所資本論翻訳委員会訳を元に翻訳した。 資本主義的生産様式が支配している社会の富は、巨大な商品集合体として、個々の商品はその富の要素形態として現われる。だから、私は、商品の分析から叙述を開始する。 <49> Der Reichtum der Gesellschaften, in welchen kapitalistische Produktionsweise herrscht, erscheint als eine "ungeheure Warensammlung"(1), die einzelne Ware als seine Elementarform. Unsere Untersuchung beginnt daher mit der Analyse der Ware. マルクスは、巨大な資本主義経済を構成する、最も単純でありふれた要素である商品の分析から出発する。 商品は、人間の欲望をみたす使用価値(近代経済学で言うところの効用の対象となるもの)と、他のものとの交換比率であらわされる交換価値(発展した貨幣表現としては価格)をもつ。等価関係におかれた二商品は、なぜ価値が等しいと言えるのか。使用価値が等しいからではない。なぜなら使用価値が異なるからこそ交換の意味があるからである。では商品から使用価値を取り去ると何が残るか。それは、商品とは、自然物になんらかの人間の労働が付け加わった労働生産物である、ということだけである。二つの商品が等価であるというとき、その商品の生産に費やされた労働の量が等しい。しかもこの労働は、シャツや綿布といった具体的な使用価値を形成するような、裁縫労働や織布労働といった具体性のある労働(具体的有用労働)ではない。労働の具体性をはぎとられた抽象的な労働、単なる人間の能力の支出としての抽象的人間労働、そのような労働の生産物として二つの商品は等しいとされる。抽象的人間労働の凝固物、これが価値の実体である。価値の量すなわち抽象的人間労働の量は、基本的には労働時間によってはかられ、その際に労働の強度や労働の複雑さが考慮される。 さらに、価値量を規定する労働時間は、その商品を生産するのに必要な個別的、偶然的な労働時間ではなく、社会的に必要とされる平均的労働時間である。たとえば、ある社会に、1日8時間労働で1着のシャツをつくる商品生産者Aと、1日8時間労働で7着のシャツをつくる商品生産者Bがいるとすれば、社会全体としては16時間労働で8着のシャツが生産され、平均すれば、1着あたりに2時間労働が費やされていることになる。商品生産者Aが手にするのは2時間労働分の価値、商品生産者Bが手にするのは14時間労働分の価値である。したがってよく誤解されるように、怠け者が得をするわけではない。 商品の価値は、その商品の生産に費やされる社会的に平均的な労働量によって決まる。これがマルクスが、アダム・スミスやリカードから受け継ぎ発展させた労働価値説のあらましである。 しかし、商品は自らの価値を自分だけで表現することはできない。ある商品の価値量は、他の商品の使用価値量によって表現される。これが貨幣の起源である。商品社会で、ある一つの商品の使用価値量によって他のすべての商品の価値量を表現することが社会的合意となった場合、その特殊な商品が貨幣となるのである。貨幣商品の代表が金(gold)であり、その使用価値量、すなわち重量が貨幣の単位となった。 また、商品の価値を貨幣で表現したものが価格である。ある商品の価格は需要供給の変動により、価値と離れて変動するが、価値はこの価格変動の重心に存在し、長期的平均的には、商品が含む労働量によって、価値によって価格は規定される。 商品や貨幣は、資本を説明するための論理的前提である。一般の商品流通は、自分の所有する商品と相手のもつ商品との間の、貨幣を媒介とした交換の過程であり、商品-貨幣-商品である。この流通は「買うために売る」、つまり欲しい商品を手に入れ、その使用価値を消費することによって終わる。これに対して、資本としての貨幣の流通は「売るために買う」、…貨幣-商品-貨幣… である。この流通の目的は価値、しかも、より多くの価値を得ることであり、資本としての貨幣の流通は終わることのない無限の過程である。資本とは「自己増殖する価値」であり、これが最初の資本概念である。資本を理解するためには、価値とは何か、貨幣とはなにか、商品とはなにかが理論的に明らかにされている必要があったために、資本概念の前に商品、貨幣、価値などの概念が説明されていたわけである。
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