命名者表記
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/17 01:44 UTC 版)
学名の後ろに命名についての情報(命名者や年号など)が付加されていることがある。本来、学名が指し示すものはそれだけで一意に決まることが理想である。しかしたまたま違う生物に同じ学名が与えられることもあり、この場合でも最終的にはどちらか一方だけがその学名を使えるが、常に一意に決まるわけではない。そこで、便宜のため引用情報を付加することで、学名の示す生物をより明確にするのである。さらに詳しく書名やページ番号まで引用することもある。それぞれの命名規約では、学名の後に命名者の名前と年号を続けて記すことが推奨されている。ただしこれは学名の一部ではなく、分類学関連の著作以外では省略して構わないし、表記する方が正式ということでもない。 動物の場合は、学名と命名者(ICZNの用語では著者 author という)、学名と命名者と年号(ICZNの用語では公表の日付 date of publication という)、の両方の表記法がされており、このとき学名と命名者の間は句読点を打たず、命名者と年号の間にはカンマを打つ(逆にカンマ以外のものを挿入するべきではない。ただし、ICZN第4版からはスペースで区切る表記法でも誤りではなくなった)。公表の日付を書くことは、同名の場合などで非常に重要となるため、ICZN中では強く勧告されている。たとえばハイイロオオカミの学名ならば、リンネによって1758年に命名されたので、Canis lupus Linnaeus または Canis lupus Linnaeus, 1758 となる。 植物の場合は規約上推奨されているのは命名者のみであり、年号を記す方法について特に規定はない。実際に年号は省略されていることが多いが、記す場合にはたとえば名前の直後のカッコ内に記す。1753年にリンネが命名したヒカゲノカズラは、Lycopodium clavatum L. と記すのが一般的である。この L. は Linnaeus の省略であるが、Linne あるいは Linnaei と表記されることもある(Linnaei は Linnaeus の属格形で「リンナエウスの」の意)。もし年号を記すならば、Lycopodium clavatum L. (1753) などのようになる。 原核生物(細菌)の場合には、命名者と年号を両方記すように推奨されている。慣例として命名者と年号の間にカンマを打たないので、例えばコレラ菌であれば Vibrio cholerae Pacini 1854 となる。 命名者の名前は、特に有名で大量に命名している著者の場合、Linnaeus を "L."、Thunberg を "Thunb." のように略す慣習がある。植物では標準的な略記法が書籍 (Authors of Plant Names) にまとめられているのでそれにしたがうのが良い。一方、現在の国際動物命名規約のもとでは略記は不適当であるとされている (Appendix B.12)。 命名後に属名が変わった場合は、はじめの命名者名(動物の場合、出版年号も)を、ヒョウ Panthera pardus (Linnaeus, 1758) のように、丸括弧に入れて表記する。この場合、最初にリンネが命名したときには別属(ネコ属であり、Felis pardus Linnaeus, 1758)だったものが、後に Oken によってヒョウ属に移されたことを示す。命名者と別属に移動した人物の両方を引用したい場合、括弧付き命名者名のあとに括弧なしで続けて Panthera pardus (Linnaeus) Oken または Panthera pardus (Linnaeus, 1758) Oken, 1816 のように記述する。動物の場合、属の移動者まで記述する事は希だが、植物の場合は非常に頻繁に見られる。属を移動した人物のみを引用する記法はない。 動物においては、Papilio adippe [Denis & Schiffermüler], 1775 のように命名者が角括弧に囲まれている場合がある。これは当初の命名時に命名者が匿名・不明であり、のちに命名者が判明もしくは外的証拠により推定された事を示す。ただし動物の場合、匿名での命名が有効なのは1950年以前の発表に限られる。なお植物の場合、外的証拠による命名者の推測は現在でも有効で通常の命名者と同じ扱いとなり、角括弧は用いない。
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