古墳保存の声の高まりと方針の白紙撤回
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「高尾山古墳」の記事における「古墳保存の声の高まりと方針の白紙撤回」の解説
沼津市が高尾山古墳の保存断念を公表した5月25日、日本考古学協会は高尾山古墳の保存を求める会長声明を公表した。声明の中で高尾山古墳は日本の初期国家形成過程の画期である古墳文化形成を解明する上で極めて重要な遺跡であると位置づけられ、日本国民共有の文化遺産として将来にわたって保存、活用すべきとされた。これまで日本考古学協会が遺跡の保存問題に関して会長声明を出したのは高松塚古墳、鞆の浦しかなく、高尾山古墳が3例目となった。また静岡県考古学会も6月23日に、高尾山古墳は日本でも最古段階の大型古墳であり、重要な学術的価値を有し、日本国民にとってかけがえのない貴重な文化遺産であるとして、保存と活用を求めた要望書を提出した。一方、高尾山古墳の地元である金岡地区の5自治会は6月2日、朝夕の渋滞がひどく交通事故が多い等、劣悪な交通事情を訴えて沼津南一色線の早期建設を要望した。 沼津市の古墳解体の方針発表後、古墳保存、そして道路建設の推進を求める様々な声が錯綜する中、沼津市内で高尾山古墳の保存を求める市民グループが相次いで設立された。設立された3つの市民グループは、高尾山古墳の保存を求めるとともに、この間、古墳を解体する手続きが進められていたことを市側が公にせず、市民不在のまま決定がなされたことを問題視し、6月16日、合同で市議会宛に陳情書を提出した。 この高尾山古墳の保存を求める市民団体からの陳情は、6月23日に市議会の文教消防委員会と建設水道委員会の連合審査会で検討が行われた。検討会の中で、古墳保存派の議員からは市民に全く知らされないまま古墳解体が決定され、古墳解体に関する予算案を提出したのはおかしいのではないかとの意見が出され、道路建設派の議員からも市民への周知をきちんと行ってほしいとの要望が多く出された。しかし高尾山古墳の墳丘を剥ぎ取りながら調査を進める発掘調査の予算は、6月24日に予算決算委員会を通過し、6月30日に市議会本会議で可決した。予算が市議会で可決されたため、高尾山古墳の消滅は決定したかに思えた。 しかし6月30日の市議会本会議後、栗原裕康沼津市長は予算の執行を保留する意向を表明した。栗原市長は保留の理由として、市民の中で高尾山古墳に対する関心が高まっている現状と、沼津のイメージ問題となっている現状を指摘した。そして古墳の保存問題に関して文化庁、国土交通省、静岡県などと改めて協議し、中立的な学術経験者らからなる協議会を設け、市民も協議会の傍聴ができるようにするプランを表明した。結局、沼津市は8月6日に臨時記者会見を開き、会見の席上、古墳の解体方針は白紙撤回するとして、古墳の保存と道路建設の両立の道を探る協議会の設立を正式に発表した。この会見の席で栗原市長は方針転換の理由として、保存を求める学会の声明や、高尾山古墳の問題が想定を遥かに上回る世間の関心を集めたことを挙げた。また9月3日に行われた道路の早期着工を求める岡宮自治会の要望に対し市長は、高尾山古墳の保存問題は国土交通省が関心を持っていて、沼津市のみの意向で決められる問題ではなくなった、と説明した。加えて11月10日に金岡中校区で実施された市長と語る会での席上では、高尾山古墳の保存問題が全国規模の問題となってしまい、国土交通省から費用や技術面での援助をするので古墳保存と道路建設の両立の検討を行うよう促されたと説明しており、古墳解体方針の白紙撤回の背景には国土交通省の意向があったとしている。
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