印欧語族の性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/12 05:25 UTC 版)
印欧祖語の名詞には元来は男性・女性・中性の3つの性があり、形容詞の変化もそれに一致していたとされる。現在の印欧語族においては、これら3つの性を全て残している言語もあれば、中性が消失して男性・女性のみになったもの、性をほぼ完全に失った言語もあり、性の様相は多彩である。 男性・女性・中性の区別を全て残している言語としては、ラテン語、ドイツ語、スラヴ語などがある。これらのうちスラヴ語は男性をさらに活動体と不活動体に分け、ポーランド語に至ってはこの区別に加えて複数形を男性人間と非男性人間のカテゴリーに分ける性質も有している。ヘブライ文字で表記されるもののドイツ語から強い影響を受けたイディッシュ語には、男性・女性・中性という3つの性がある。これは後述するセム語のヘブライ語とは異なる区分である。 英語では性はほぼ失われており、生物学的性に対応したもの及び擬人法を除けば、船や国名など一部の名詞、三人称単数代名詞においてのみ現れる。また、ペルシア語とアルメニア語においては、性は代名詞も含めてほぼ完全に失われている。 名詞の文法的性は、生物においては原則として生物学的性と一致するが、非生物においてはその対象の「男性性」や「女性性」とはほとんど無関係である。また、同じ対象を表す名詞について、言語によって性は異なる。ラテン語では太陽は男性名詞、月は女性名詞で、そこから派生したフランス語なども同じだが、ゲルマン語派では逆となっているし、スラヴ語派では太陽が中性となる。文法的性が生物学的性と一致しない場合も稀にある。 また、語形と性が一致しない場合もわずかにあり、例えばポーランド語の pianista 〈男性ピアニスト〉は代名詞や接続する形容詞が男性形となる歴とした男性名詞だが、女性語尾 -a を持ち単数形は女性名詞と全く同じ曲用をする。一方、フランス語などのように名詞の曲用を失った言語では、名詞だけでは性が判別できず、添えられる冠詞や形容詞で初めてわかることもある。ドイツ語も格変化は残っているがこれに近い。 非常に変わった例としてウェールズ語がある。全体としては性の指標は失われているが、ある場所で最初の子音が他の子音に変わるという特徴がある。たとえば merch という単語は女の子を意味するが、定冠詞を付けた形は y ferch である。これは女性名詞にのみ起こる現象で、男性名詞は定冠詞の後でも変化しない。性は名詞の後に続く形容詞にも同様に影響する。たとえば、「大きい女の子」は y ferch fawr だが、 「大きい息子」は y mab mawrである。 動詞の変化は通常は性によらないが、スラヴ語においては、過去時制のみ性によって変化する。
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