内圧試験の盲点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/14 03:34 UTC 版)
「コメット連続墜落事故」の記事における「内圧試験の盲点」の解説
コメットの疲労寿命はデ・ハビランドの設計当初の予測と大きくかけ離れていたという結果となったが、その大きな乖離原因はどこにあったかということが、大きな問題となった。 そこで、開発当初に行なった試験の内容から見直しを行うことになった。当初の試験では実機同様の試験素材を使って、まず約2倍の安全率を持っていることを確認、その後に疲労試験を行なっていたが、一連の事故後の調査で、この試験手順自体に問題があったことが発覚した。 強度検査の最初の段階で大きな荷重を加えると、開口部の隅のように応力の集中する部分の材料が伸びて塑性変形し、その後は亀裂が発生しにくくなることが判明した。このため、その後に疲労試験を繰り返し行なったとしても、亀裂が発生しにくいために疲労寿命が長くなってしまう事実が明らかになったのである。 金属構造設計や冶金技術が進歩した現在では、これは当然の既知事象と考えられているが、当時はその事象は誰にも指摘されておらず、むしろこの調査によって、初めて知られることになったものであった。 また、内圧試験とともに同じ試験素材で耐圧試験をしていたことが、見掛け以上に疲労強度を大きくしていたことも判明した。開発当初試験では、内部に0.56気圧を付加する1000回の内圧試験ごとに、倍の1.12気圧を外から加圧する1回の耐圧試験を行っていた。そのため内圧試験によって内部から生じていた亀裂(クラック)が、外からの圧力によって内周が塑性変形し、外周から箍(たが)をはめられるように(紙を丸めたものが輪ゴムをはめられた事で押さえられるように)なることで、亀裂を押しつぶしていたのである。 また、実機G-ALYUに対する1954年6月の加圧試験においても、耐圧試験を1度実施していた。そのため、耐圧試験を全く行っていなかった場合、G-ALYUの機体疲労寿命はさらに減少しており、実際の試験結果よりさらに早い時期に金属疲労による破壊が起きたはずと推測された。それは2機の事故機が、共に1000回前後の飛行で疲労破壊を発生させたことと符合するものであった。 結果として、地上における胴体の内圧疲労試験によって計算された疲労寿命は、試験中に行われる耐圧試験の効果で極めて長くなり、実機の疲労寿命を安全側に予測できていない(むしろ疲労寿命に至る期間の過大評価に繋がってしまった)ことが明らかになった。 コメット以後の航空機開発では、デ・ハビランド社のような部分構造ではなく、完全な機体を2機製作した上で、1機は静強度試験に供し、もう1機は与圧の繰返しを含めた耐久性評価試験に供して、破壊強度特性を評価することとなった。この手法はボーイング社のボーイング707や日本航空機製造のYS-11など、後続の与圧構造を用いる多くの航空機開発において採用されている。
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