作者による作品解説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/10 03:22 UTC 版)
渡辺は執筆の動機と作品解説として「男女ものの小説をメインに据えようとした時、私はエロスとは何かについて考えていました。華麗なエロスを書こうと思い立ったのが『ひとひらの雪』です。私は精神と肉体のどちらかを取るかと問われれば、有無をいわず肉体を取ります。外科医だったせいか、精神は嘘っぽいというか、肉体の状態で精神が変わることは限りなくあるのに、精神によって肉体が変わることは極めて少ないと思っていました。男女の差も体の違いであり、肉体の快楽の有無と深さによって、愛の形も変わります。タイトルは男女が愛し合えば愛し合うほど、愛はうつろに消えていく、はかなく消えるというイメージです。ちょうど京都の春の雪を思い出したのです。春の雪は結晶が大きくて、光を浴びながらイチョウの枯れ葉のようにひらひらと舞い降りてきて、淡く消える。それから取ったのです。この題名は気に入っているものの一つです。男女ものの小説は当然のことながら、女性が好きでないと書けません。自分の気持ちが艶めかないと書けないのです。私は執筆活動をしているうちに、着実にそのような資質が膨らんでいたのだと思います。この連載中、確かな手応えがありました。『朝からみだらな風を吹きまくるお前は死ね』とカミソリが送られてきたり、絶賛してくれる人がいたり、賛否両論でした。批判がくるとますますやる気が出ました。『それなら、とことん書いてやれ』と思ったわけです。この作品で、自分なりの書き方がある程度完成できたという実感を得ました。それもポルノではなく、いかに華麗に透明に男女ものを描けるかと、文章を練りに練って挑みました。後で『新情痴文学』という呼称をもらいましたが、これも嬉しかった。ビデオやヌード、ポルノが巷にあふれているのに、映像よりも私の小説を読んで艶めかしさを感じてくれる人がいることに、私は文学の文字の力を感じました。小説というのは一代限りの知恵を書くものです。伝承できない知恵。学校で教えられない知恵。男女の関係もまさにそう。伝承できず一代で終わってしまう知恵です。どんな体験をしてもその人だけのもので子供には残していけません。だから人類はつながり、協調できるのです。連載中『これを書いて間違いない。男女ものでいいんだ。生涯これを書いていこう』と確信したのです。ちょうど50歳目前のときでした」、「それまでのサイン会は女性がほとんどでしたが、男性が多く見えられてね。こういう作品に関心がおありなのかと思いましたね。今迄女性を主人公にした現代ものの恋愛小説は幾つかありますが、疲れるんですよね。相当スタミナがないと書けない。それでこの本では男の主人公で自分に近い世代で、自分に引き付けて書いたのでリアリティも出て楽なわけです。素直に書けたように思います。主人公の伊織はぼくの分身であり、ぼくの本音みたいなものです。それといい意味でのエロティシズムをうまく書きたいと思っていた。汚いエロティシズムではなくてね。ある程度、エロティシズムをどれくらい新聞小説の範疇で書くことが出来るかと思ってやってみたわけです」などと話している。渡辺のファンはそれまで圧倒的に女性が多かったが、本作以降、男性のファンが増えた。
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