五十音順の配列
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/05 16:43 UTC 版)
『説文解字』では、9,353字にのぼる文字を六書の法で分け、部首による分類法を採用した。そのためその後の日本と中国の字書はこの部首法を用い、それをさらに分け入るにあたって画数順を適用し、長らくこの字引スタイルは変化していない。白川が字書をつくるにあたって、まずもって一新しようとしたのはこの点であった。白川は、「日本の現行の字書の配列はほとんどが部首法を踏襲している。この部首法は一種の便法として中国で用いられているものに追随しているにすぎず、国語としての漢字を扱う上からいっても、必ずしも適当な形式ではない。国語の語彙としてはその字音を用いるのであり、日本の字書が部首法によるべき理由はない。(趣意)」と述べ、本書では、漢字を国字国語とする立場から五十音順配列の方法を採用している。そして、字音は漢呉音、唐宋音のように区別があるときは、最も一般的な音に従っている。巻末には、字訓索引・総画索引・部首索引も用意している。 部首法の欠点 「与」の部首が臼(𦥑)部であるように、部首が判じがたい場合がある。この例では「与」が「與」の略体であり、かつ、「與」は、「与」と「𦥑」(きょく)と「廾」(きょう)とに従う字であるという知識を要する。しかし、「輿」は車部に分類されており、「興」と「擧」は臼部である。よって、概ねのところは暗記する必要があった。 読む字書 白川は、「本書は五十音順の字書であるから、別に定まった読み方があるわけではない。引きたい字を引けばよいわけだが、本書はまた読んでほしい字書である。なるべく体系的に読んでほしい。大項目の百科事典のように使ってほしい。」という。そして、五十音順の配列は、その体系的な読み方を容易にする。それは、「声近ければ義近し」という王念孫の訓詁学上の原則によって証明される。白川は、「なるべく同音・近似音のところをまとめて読んでほしい。おそらくいろいろと発見されるところがあるはずだ。」と述べている。 転注について 本書の同音の字を見てゆくと、白川が説くところの転注に気づく。転注とは漢字の構造法である六書の中の一つで、『説文解字』に「建類一首、同意相受く」と規定している。が、その意味があまり明らかでなく、研究者の間にもまだ一致した解釈は得られていない。白川は、「意符を主とする文字系列によって、字の構造をみようとするものであろう。」と解釈している。 例えば、「ふくらんだもの」を畐といい、これを要素とする字に、偪(せまる)・副(そう)・幅(はば)・輻(車の矢)などがある。また、「ひとつながりに連なったもの」を侖といい、倫(兄弟など、なかま)・淪(さざなみ)・綸(より合わせたつりいと)・輪(車の並んだわ)などがある。このように畐や侖を要素とする字に一貫した意味が与えられているというような関係の字を転注と解釈することができる。これらの字は部首法の上からはそれぞれの部に属し、それ自身の系列を示すことはない。六書の中で他にこのような関係の字を一類とする規定がないからである。「同意相受く」という転注法によってその系列を回復する。 また、畐の系列は畐(フク)を音符とし、侖の系列は侖(リン)を音符としているように、同じ音符をもつ多くの字がその音符のもつ意味と音とを共有するという関係が転注である。よって、五十音順の配列は、部首法によって永い間分散していた転注による系列を顕現する。
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