事業分離の各国状況
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/06 02:37 UTC 版)
線路や駅などを保有・維持管理し、各列車運行事業者の施設利用申請を受け付け、各事業者の列車の運行管理を行って利用料を徴収する鉄道施設保有管理事業については、国有資産を用いた事業であることから、多くの国で現在も国が出資した法人等が所管している。施設保有管理事業をさらに鉄道駅などの営業関係施設管理運営事業と線路や信号設備などの路線管理・運行管理事業に分け、それぞれを別の子会社に分離したドイツ(2008年再統合)やオーストリアなどのケースもみられる。 国鉄または旧国鉄法人側に施設保有管理事業を残し、列車運行事業について新設法人に移管した国では多くの場合、両事業のスムーズな完全分離が実現したが、フランスなど、旧国鉄法人を列車運行事業者とし、施設保有管理事業を新設法人側に移管した国では、列車運行事業者となった旧国鉄法人が新設法人から施設管理業務を受託する形を採って受託費用と施設利用料を帳簿上相殺するという抜け道で、旧国鉄法人が両事業を引き続き支配し、実質的に他の列車運行事業者の新規参入を妨害するケースが目立った。 このうち、2004年に予定していたEU加盟条件のクリアに迫られて2003年、路線施設の保有管理事業について新設法人(鉄道輸送路線管理公団、現・鉄道管理公団)に移管して株式会社に転換したチェコ鉄道株式会社(ČD)では、列車運行事業者であるにもかかわらず法定の国鉄法人として引き続き駅などの営業施設保有管理事業を続けた上、路線保有管理事業についても公団から丸ごと受託する形を採って事実上の国鉄線独占状態を続けたため、国内の民間列車運行事業者でつくる鉄道事業者協会(Sdružení železničních společností)が2005年、悪質であるとして政府とČDを名指しで批判する共同声明を出す事態に発展した。 こうした事態を受け欧州委員会は2010年6月、列車運行事業と施設管理事業の分離が不十分で、旧国鉄以外の民間列車運行事業者に対する平等なアクセス権がなお確立されていないとして、加盟国中13か国(オーストリア、チェコ、ドイツ、ギリシャ、フランス、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、ポーランド、ポルトガル、スロベニア、スペイン)の政府を欧州司法裁判所に提訴した。 ドイツとオーストリアに関しては、共に両事業を所管する法人が同一企業グループ傘下にあるものの、仕組み上列車運行事業者による施設管理事業への干渉は起こりえず、平等なアクセス権は担保されているとして訴えが退けられた。また多くの政府が自国の訴追を受け指令遵守に向けて腰を上げたものの、裁判ではポルトガル、スペイン、ハンガリーについてはEU指令が完全遵守されていないと明確に認められ、欧州司法裁判所はこのうちハンガリーとスペインについて2013年2月、「鉄道自由化に失敗している」との判決を下した。敗訴したハンガリーやスペインを含む11か国では訴追以後、再度の法令改正や組織改正、運用の見直しが行われ、国鉄事業の透明化が進められた。
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