一階の性質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/23 02:40 UTC 版)
実数の体系に無限大量および無限小量を加えた拡張を考えるとき、典型的には実数の持つ「基本」性質をできうる限り保存するものであって欲しいはずである。そうすれば、実数に関してよく知られた膨大な結果が、拡張した体系においてもそのまま使える保証が得られるからである。典型的には「基本」というのを、「元に関する量化だけを行い、集合に対する量化は行わない」命題という意味にとる。この制限のもとで「任意の数 x について—」という主張は許容されるから、例えば、加法単位律「任意の数 x に対して x + 0 = x が成り立つ」という主張は有効な文である。これは複数の数を量化するのでもよいから、例えば「任意の二数 x, y について xy =yx が成り立つ」も有効である。しかし「数からなる任意の集合 S に対して—」という主張は拡張した体系に引き写すことはできない。このような量化に関する制限を伴う論理を一階論理と呼ぶ。 無限小を含むように拡張した数体系は、集合に関する量化によって表される性質の全てにおいて実数と同じ結果を示すものであってはならない。目的の体系は非アルキメデス的であるが、アルキメデスの公理は集合に関する量化によって表されるからである。実数や点集合に関する任意の理論に無限小を加えた保存的拡大を得る一つの方法は、単に「無限小は 1/2 より小さい」「無限小は 1/3 より小さい」…(以下同様) といった主張からなる可算無限個の公理を付け加えることである。同様に、完備性も目的の体系では期待できない。実数体は同型を除いて一意な完備順序体だからである。 実数の一階の性質と両立する性質を持つような非アルキメデス的数体系について、次の三つのレベルを区別することができる: 順序体は一階論理で述べられる実数体系の全ての通常の公理に従う。例えば可換律 x + y = y + x {\textstyle x+y=y+x} が成り立つ。一方、全ての性質を共有するわけではない。例えば、非零数の平方の和は非零であること(実体の公理)は言えるが、奇数次多項式が必ず根を持つことは言えない。 実閉体は、通常公理として取られるかどうかに関わらず、順序体の基本的関係 +, ×, ≤ を含むような主張について、実数体系の持つ全ての一階の性質を持つ。(これは実閉体の一階理論 RCF が完全であるという事実に負う。)これは順序体の公理をすべて満足するという主張よりも強い条件である。よりはっきりいえば、「任意の奇数次多項式が根を持つ」というような一階の性質が追加で含まれる。この体系においては、例えば任意の数が立方根を持たねばならない。 この体系では、いかなる関係(それらの関係が +、×、≦ で表される必要はない)を含む主張についても、実数体系の持つ全ての一階の性質を持つ。例えば、無限大の入力に対しても矛盾なく定まるような正弦函数があるのでなければならない。同じことはどんな実関数に対しても言える。 上記の分類 1 に属する体系(これらレベルのうち弱い側の場合)は構成することは比較的容易だが、ニュートンやライプニッツの精神に則って無限小を用いる古典的な解析学を完全に展開することはできない。例えば、超越函数は無限大の極限過程の言葉で以て定義されるので、これは典型的には一階論理の中で定義できない。分類 2 や 3 に当てはまれば、解析的な色彩は濃くなるが、その扱いの構成的な性格が損なわれていく傾向があり、無限大や無限小の成す階層構造について何か具体的なことを言いづらくなってしまう。
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