ウォシュの定理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/25 06:47 UTC 版)
超積の基本定理とも呼ばれるウォシュの定理は、イェジー・ウォシュ(英語版) によって示され「一階述語論理の任意の式が超積において真となるための必要十分条件は、その式が Mi において真となる添字 i 全体の成す集合が超フィルター U に属することである」ことを述べる。より精確には: 定理 (Łoś) σ を一つの指標とし、集合 I 上の超フィルター U が与えられ、各 i ∈ I に対して Mi が σ-型の構造とする。M を Mi の U に関する超積 M = ∏ i ∈ I M i / U {\textstyle M=\prod _{i\in I}M_{i}/U} とすれば、各 a 1 , … , a n ∈ ∏ M i ( a k = ( a i k ) i ∈ I ) {\textstyle a^{1},\ldots ,a^{n}\in \prod M_{i}\quad (a^{k}=(a_{i}^{k})_{i\in I})} および任意の σ-式 φ に対し、 M ⊨ ϕ [ [ a 1 ] , … , [ a n ] ] ⟺ { i ∈ I : M i ⊨ ϕ [ a i 1 , … , a i n ] } ∈ U {\displaystyle M\models \phi [[a^{1}],\ldots ,[a^{n}]]\iff \{i\in I:M_{i}\models \phi [a_{i}^{1},\ldots ,a_{i}^{n}]\}\in U} が成り立つ。 定理は式 φ の複雑さに関する帰納法で示せる。U が超フィルターである(単にフィルターとなるだけでない)ことはこの節の否定において用いられており、また存在量化のステップでは選択公理が必要である。応用として、超実数に対する移行原理(英語版)が得られる。 例 R が構造 M 上の単項関係とし、M の超冪を作る。集合 S := {x ∈ M | Rx} は超冪の中に対応する *S を持ち、S に関する一階の式は *S に対しても有効となる。例えば、M が実数体で Rx は x が有理数であるとき真とするとき、M において「任意の有理数の対 x, y に対して有理数でない z が存在して、x < z < y とできる」が成立するが、この性質は適当な形式言語における一階の式に直せるから、ウォシュの定理により、*S も同じ性質を持つ。つまり、超実数体の部分集合で有理数と一階の性質が同じである「超有理数」の概念がこれによって定まったということになる。 それでもなお、実数の持つアルキメデス性(無限個の条件 x > 1, x > 1 + 1, x > 1 + 1 + 1, … を同時に満たす実数 x は存在しない)を考えれば、これは一階の性質として述べることはできないから、ウォシュの定理は適用できない。実は、超実数に対してアルキメデス性は偽となる(上で述べた数 ω の構成がそれを示している)。
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