モーゲンソー私案
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 13:58 UTC 版)
11月11日に国務省極東部は対日協定案を作成し、ハル国務長官に提出したが、これは具体性に欠けたものであった。一方、11月17日にモーゲンソー財務長官が国務省の頭越しに、対日協定案を私案として直接大統領に提出した(この私案は、ソ連のスパイである財務省特別補佐官ハリー・ホワイトが作成したものであった)。モーゲンソー私案は極東部の試案よりも軍事、経済問題でより具体的であったため、こちらが検討対象となった。ハルはモーゲンソーを不快に思ったが、私案には良い点もあったので国務省案に取り入れられたと回想している。 モーゲンソー私案の題は「日本との緊張を除去しドイツを確実に敗北させる課題へのアプローチ」で全体で三部、内容は以下の通りであった。 アメリカ政府が提案するもの 太平洋から米海軍の大部分の撤収 日本と20年間の不可侵条約を締結 満州問題の最終解決を推進 イギリス、フランス、日本、中国、アメリカの合同委員会の構成する政府のもとでインドシナの利益の擁護 中国におけるすべての治外法権の放棄 排日移民法の廃止を議会に要請 日本に最恵国待遇及び相互に満足の行く輸入上の譲歩を行う 20年間にわたり年利2%にて総額20億ドルの借款を提供 ドルと円の為替レートの安定のために総額5億ドルを日米で折半の上拠出 在米日本資産凍結の解除 日本と隣国の潜在的な摩擦の原因を除去すべくアメリカは影響力を十分に発揮すること 日本政府が提案するもの すべての陸海空軍、警察力を中国(1931年の境界で)、インドシナ、タイから撤収 国民政府以外の中国におけるいかなる政府への支援を中止 中国で流通している軍票、円、傀儡の紙幣を、中国、日本、英、米の各財務省で合意したレートで円貨幣に交換する 中国におけるすべての治外法権の放棄 中国再建のために年利2%にて10億円の借款を提供 ソ連が極東の前線から相応の残留部隊を除き、軍を撤収させるという条件で、警察力として必要な少数の師団を除き満州から日本軍を撤収させる 現在の戦争資材の生産量の4分の3を限度として米国に売却すること。価格は原価+20%を基準とする すべてのドイツ人技術者、軍職員、宣伝員を退去させる 日本帝国全域において米国と中国に最恵国待遇を与えること 米国、中国、英国、オランダ領インドシナ、フィリピンとの間に10年間の不可侵条約を交渉する 第四部ではこの協定の利点として、アメリカにとっては太平洋艦隊を他の地域へ向けることでドイツに対して連合国の地位を飛躍的に強化できること、対日戦を回避できることなどが挙げられた。また日本にとっての利点は、深刻な戦争および終局の敗北に直面せずに平和を確保できること、日本の再建や満州建設にその勢力や資本を充当できることなどが挙げられた。
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