ホタルルシフェラーゼ
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「ルシフェラーゼ」の記事における「ホタルルシフェラーゼ」の解説
ホタルルシフェリン-4-モノオキシゲナーゼ (ATP加水分解) (Photinus-luciferin 4-monooxygenase (ATP-hydrolysing))、通称:ホタルルシフェラーゼ (firefly luciferase) はホタルを化学発光を触媒する酸化還元酵素である。1957年に単離・精製され、1961年にその平面構造が決定されている。 ホタルの発光効率は極めて高く、発光量子効率は約0.88であると報告されていた(1960年 McEory)が、その後の検証で約0.41であると報告されている(2008年 安藤)。ホタルの光は明滅するが、このフラッシュ発光はNO(一酸化窒素)により制御されていることが提唱され、以下のように考えられている。神経末端と発光細胞の間にあるNO合成酵素(NOS)が、NOを生産し、発光細胞のミトコンドリアのチトクロムcオキシダーゼと呼ばれる酵素の活性を抑える。すると、ホタルルシフェラーゼが局在しているペルオキシソームの中の酸素量が増え、発光反応を促進させる。したがって、ペルオキシソームの酸素量は直接にホタルの発光明滅に関わると考えられる。 ホタルルシフェラーゼの反応は2段階により進行する。まず、ルシフェリンのカルボキシル基がATPのα位のリン酸部位を攻撃し、ルシフェリルAMP中間体を酵素中で一旦生成する。その後、酵素が中間体と反応した後、励起状態のオキシルシフェリンが生成し、これが基底状態のオキシルシフェリンに変わる際、そのエネルギーを黄緑色の発光として放出する。 1985年に初めてホタルルシフェラーゼ遺伝子がクローニングされた。これにより、アミノ酸配列が決定し、アシルCoAリガーゼとの配列類似性が高いことが判明した。アシルCoAリガーゼは、ATP存在下で、脂肪酸のアデニレート体を中間体とし、ホタルルシフェラーゼもまた同様に、同じくホタルルシフェリンをアデニレート化する。 発光反応にATPを介在させることから、ATPの微量検出に用いられる。ATPは多くの生物がエネルギーとして利用することから、ホタルルシフェラーゼを用いて、微生物の検出等の応用例が見られる。また、ATPを添加することで簡易に発光反応を起こすことができることから、in vivoでの実験において、レポーター遺伝子として用いられることも多い。 1996年にホタルルシフェラーゼのX線結晶構造解析が行われ、その構造が明らかとなった。ホタルルシフェラーゼの構造による発光色の決定を解明するため、キメラ変異体、ランダムあるいは特定のアミノ酸残基の変異体が作製され、発光色の謎に構造学的に迫ったことを2006年に中津らが、Nature誌にて報告している。中津らは、発光反応に伴うルシフェラーゼの一連の反応を明らかとするために反応中間体のアナログを合成し、構造解析に用いた。これにより288番目のイソロイシン(Ile288)付近にのみ、重要な動きがある事を観測した。それは、Ile288はルシフェリン結合部位の方へ移動していたことである。このことから、Ile288が発光直前に動くことで、活性中心の疎水的な環境が完成するという考えを抱いた。これを検証するため、既に赤色に発光する286番目のセリンをアスパラギンに変えた変異体(S286N)について、反応中間体アナログとの構造解析を行った。すると、S286Nの構造は、野生型の反応終了後と同じ構造をとっており、この構造の中では、Ile288の動きは観測されなかった。S286Nが赤色発光を行うことから、Ile288が動く事は緑色発光に必要であることが考えられ、Ile288と反応中間体アナログとの接触の仕方が重要であるといえる。これを検証するため、彼らはIle288をバリン(V)、アラニン(A)またはアスパラギンに変えた変異体を作製した。その結果、発光色が緑色から、赤色ないしは橙色になることを確認した。
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