セルの方向性と電極のスペーシング
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/11 02:08 UTC 版)
「熱化学電池」の記事における「セルの方向性と電極のスペーシング」の解説
セルの向きと電極の間隔は対流に影響を与えるためセルの性能に大きな影響を与える可能性がある。拡散によるレドックス種の物質移動は比較的遅いが、対流をシステムに導入することによって大幅に増加させることができる。液体中の対流は、電解質の密度が温度によって変化するために生じる。低密度の高温電解質は電池の頂部に上昇し、冷却されると電池の底部に戻ることで、電池の周りに電解液の流れを作り出す。この対流の程度は、特定のセルパラメータを調整することによって最適化できるが、各電極の温度、熱伝導率および電解質粘度などのパラメータに依存する複雑な現象である。 強制対流とは対照的に、自然対流はセルの向きによって抑制されるか、または増強され得る。一般的に、このパラメータの研究では、3つの向きが比較される:ホット・オーバー・コールド、コールド・オーバー・ホットと垂直配置の3つである(図6)。ホット・オーバー・コールド配向(図6(a))では、低密度のホット電解質がセルの頂部にあるので、対流がほとんどまたは全く生じないのに対して、コールド・オーバー・ホットおよび垂直配置(図6 6(b)、(c))は自然対流を促進する。セルの向きに加えて、電極の分離は物質輸送の特性に影響する可能性があるため、セルの向きと併せて調べられることが多い。 図6 異なる方向の電池内で起こる対流の概略図。(a)ホット・オーバー・コールド(低対流)(b)コールド・オーバー・ホットおよび(c)垂直配置。 セルパラメータが性能に及ぼす影響を調べているほとんどの研究は、フェリシアン/フェロシアン化物に焦点を当て、実験的な手法16,23,60とモデル化アプローチの両方を利用して61。このシステムでは、セルの向きによる自然対流を強化すると電力出力が増加する。対流がない場合、拡散、移動(電気泳動)およびソレット効果(熱泳動)を介して物質移動が起こる。この場合、電池を横切る物質輸送は、両方向において同等の速度では起こらない。特に、Soret効果は、コールド電極にイオンを蓄積させ、セル内に顕著な濃度勾配を形成するために物質輸送過電圧を誘起する60。さらに、コールド電極での拡散速度が遅いと電流密度が制限される。研究では、このようなセル(対流なし)では、電流出力が大幅に減少することが示されている60,61。Quickendenら60は、定常電流に達するまで、濃度勾配が形成されるにつれて、電流出力が時間に伴い減少することを観測している。 自然対流を増加させると濃度が均一化され、抵抗が低くなり、レドックス種の電極への物質移動速度が増加し、出力が増加する。対流を伴うセルでは、Salazarらによるモデル化研究61により、出力の約88%が対流による物質輸送に起因する可能性があるとされている。物質輸送における他の不均衡は、対流のない電池の電力または電流出力の有意な減少のような結果をもたらさない。これらの電池では、電流密度は依然として冷電極での低イオン拡散によって制限されている。しかし、これは、経時的な電流出力または電力出力の低下をもたらさない。むしろ、セルの限界電流密度を決定する。 対流が増加するとセルを横切る熱伝達率も増加する。したがって熱勾配を維持するためにより大きな入力エネルギーが必要とされ、変換効率が低下する。しかしながら、量的研究は、物質輸送の向上による電力の増加が、熱伝達による効率の低下を大きく上回ることを示している61。 電極間隔は、装置の出力にも影響を及ぼす可能性がある。フェリシアン/フェロシアン化物の電解質水溶液では、一般的に物質輸送効果によって性能が制限されるため、電極間隔を大きくすると出力が低下する16,161。しかし、電極の間隔に関しては、電力と効率のトレードオフが存在し、より小さい電極間隔は電力出力を増加させるが、2つの電極間のより大きい熱伝達のために効率を減少させることもできる。 対流などの強制対流を導入することで、対流の利用をさらに向上させることができる42。しかし、電解液を攪拌するのに必要なエネルギー投入量の増加は、一般に、電力の改善を相殺するので、強制対流セルの効率を自然対流のそれと容易に比較することはできない。
※この「セルの方向性と電極のスペーシング」の解説は、「熱化学電池」の解説の一部です。
「セルの方向性と電極のスペーシング」を含む「熱化学電池」の記事については、「熱化学電池」の概要を参照ください。
- セルの方向性と電極のスペーシングのページへのリンク