セイヴァリの蒸気機関
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/23 20:28 UTC 版)
「トーマス・セイヴァリ」の記事における「セイヴァリの蒸気機関」の解説
セイヴァリが"鉱夫の友"で解説している蒸気機関の外観と断面を右に示す。 機関は主に、炉 A を含むボイラ L、蒸気で水を出し入れする二つのレシーバー P、それに繋がる吸い込み管 T と吐き出し管 S 、レシーバーに冷水をかけるための水槽 X と蛇口管 Y 、などで構成されていた。その原理は、レシーバー内に溜まっている水を蒸気の圧力(当時は「弾性」とよばれた)により、吐き出し管へ排出し、レシーバーを冷水で外部より冷却することにより、蒸気を凝縮させ、吸い込み管から低所の水を吸い上げ(大気の「弾性」で押し上げ)、この動作を繰り返すことにより揚水する。 同書に記載されているその他の構造上の特徴では、 ボイラ水を補給する間でも機関の運転を継続することができるように、主ボイラ L に加えて補助ボイラ D を備えている。 それらのボイラには、長短 2 本の管 G N を組み合わせた水面位置検出器(水面計の機能)がある。 補助ボイラには吐き出し管途中から冷水を導く管 E が繋がり、主ボイラの水面が低くなると補助ボイラから熱水を給水する。 主ボイラからレシーバーに繋がる 2 本の蒸気管 O1 O2 の入口に調節器(切換え弁)があり、ハンドル Z で操作する。 レシーバーにかける冷水は、吐き出し管からフロート弁を介して水槽 X へ取り出し、コックのついた蛇口管をレバーで操作して、どちらかのレシーバーに冷水をかける。 レシーバーに繋がる吸い込み管と吐き出し管には4個の逆止弁 R があり、水圧と自重で開閉して逆流を防ぐ。ねじ式の栓を外せば、保守のために弁を取り出すことができる。 等の工夫がある。 その操作および動作は以下のようになる。 補助ボイラを満水にし、主ボイラに全体の 2/3 の水を入れて、加熱して蒸気を発生させる。 レバー Z を操作してレシーバー P1 に蒸気を送り、中の空気をすべて追い出す。吐出し弁 R1 が カタカタ と音を立て、吐き出し管が熱くなれば、空気が追い出されたことが分かる。 レバー Z を切り替えて、蒸気を レシーバー P2 に送って、同様に空気を追い出す。この間、蛇口管 Y のレバーを操作して、最初のレシーバー P1 に冷水をかけて蒸気を凝縮すると、吸い込み管から水が入ってきて P1 を満たす。レシーバー外面が冷たくなることから、水が入ったことが分かる。 レバー Z を操作して、レシーバー P1 に蒸気を送り、中の水を蒸気で吐き出し管へ押し出す。蒸気が水に打ち勝つためには時間を要するが、やがて蒸気が勝って、レシーバーの外面が乾いて熱くなり、水が排出されたことが分かる。この間、蛇口管 Y のレバーを操作して、他方のレシーバー P2 に冷水をかける。 この操作を双方のレシーバーで繰り返して、滑らかに水をくみ上げることができる。 当時、鉱山の排水のために、似たような多くの方式が既に持ち込まれて失敗していたので、鉱山の関係者は、新しいプロジェクトを疑いの目で見るようになっていた。セイヴァリは"鉱夫の友"の中で、彼の "火の機関" は単なるプロジェクトでなく、真に実用的な機関であることを説得するために、誰にでもわかるように懇切丁寧に説明している。また、13から14 歳の少年でも、数日の教育を完了すれば、運転することができると強調している。 セイヴァリより36年前の1662年に、ウスター侯爵エドワード・サマセットが種々のアイデアを発表した本の中に、セイヴァリの蒸気機関とよく似たアイデアが掲載されており、セイヴァリ機関はその剽窃であるとの説もある。しかし、ウスター侯爵は蒸気の圧力で水を排出するだけで、凝縮を用いて吸引する案は持っていなかったし、何よりも、実動する機関を作ることは、全くできていなかった。 セイヴァリは、パパンの蒸気機関をヒントにしたと述べているが、セイヴァリは、パパンと異なって、ピストンとシリンダーを採用せず、また大気圧以上の蒸気の圧力を利用した。後世から見ると、ボイラを別個に設けたことを除くと、原理的にはパパンの方式が優れていたが、機関の完成度はセイヴァリの方が高く、パパンもその後、セイヴァリの方式と類似の模型を製作した。その後に開発されたニューコメン機関が、結果的に両者の利点を引き継いだ。 セイヴァリの蒸気機関には、重大な問題がいくつか存在していた。 蒸気でレシーバーの水を排出して揚水するときに高圧の蒸気を必要とするが,ロウ付けした継ぎ手が高圧蒸気に耐えられず,頻繁に補修が必要であり,また,ボイラ爆発の危険と隣り合わせであった。 ポンプは,くみ上げる水位面より約30フィート(9.1m)以上の高い位置に設置することができない。セイヴァリの蒸気機関はポンプと一体であるため,この機関全体を坑道の深い位置に設置する必要があった。さらに,故障時には水没して、自力では回復できなかった。 高圧にさえできれば、ポンプから地表までの揚水高さには理論上の制限はないが,実際の安全性の面からは,中低圧のポンプを直列につなぐ方が好ましかった。 蒸気がレシーバー内に入れられるたびに,揚水する水とレシーバー容器の加熱のために熱の大半が失われていた。 セイヴァリ自身による改良の記録は残っていないが、その後何人かの人々により、これらの欠点が部分的に改良された。
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