ジフテリア毒素 [Diphtheria toxin]
この毒素は1本鎖のポリペプチド(アミノ酸の重合体)で、毒素(酵素)活性を担うAフラグメント(構成部分)と、感受性細胞へ結合してAフラグメントを細胞内へ運ぶ役目をするBフラグメントから成っている。どちらのフラグメントも単独では毒性を示さない。この毒素の性状や機能が詳しく研究され、全構造も決定された。ジフテリア毒素はアデノシン・二リン酸(ADP)-リボースをニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(NAD)から、タンパク質が合成される過程に働くポリペプチド鎖伸長因子(アミノ酸を順次結合させてタンパク質にする酵素:EF-2)へ転移させて、この酵素を不活性化させることでタンパク質の合成を阻害する。また、緑膿菌も同様の酵素を産生することが判っている。なお、ジフテリア毒素の構造はジフテリア菌のファージ(細菌ウイルス)の遺伝子DNAが発現することによって決定されるので、このようなファージをもつ溶原菌(テンペレート・ファージが溶原化して、プロファージをもつ細菌)のみがこの毒素を産生する。
ジフテリア毒素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/12 15:00 UTC 版)
tox diphtheria toxin precursor | |||||||
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![]() ジフテリア毒素タンパク質のリボン図 | |||||||
識別子 | |||||||
由来生物 | |||||||
3文字略号 | tox | ||||||
Entrez | 2650491 | ||||||
RefSeq (Prot) | NP_938615 | ||||||
UniProt | P00587 | ||||||
他データ | |||||||
EC番号 | 2.4.2.36 | ||||||
染色体 | genome: 0.19 - 0.19 Mb | ||||||
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Diphtheria toxin, C domain | |||||||||
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識別子 | |||||||||
略号 | Diphtheria_C | ||||||||
Pfam | PF02763 | ||||||||
Pfam clan | CL0084 | ||||||||
InterPro | IPR022406 | ||||||||
SCOP | 1ddt | ||||||||
SUPERFAMILY | 1ddt | ||||||||
TCDB | 1.C.7 | ||||||||
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Diphtheria toxin, T domain | |||||||||
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識別子 | |||||||||
略号 | Diphtheria_T | ||||||||
Pfam | PF02764 | ||||||||
InterPro | IPR022405 | ||||||||
SCOP | 1ddt | ||||||||
SUPERFAMILY | 1ddt | ||||||||
TCDB | 1.C.7 | ||||||||
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Diphtheria toxin, R domain | |||||||||
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識別子 | |||||||||
略号 | Diphtheria_R | ||||||||
Pfam | PF01324 | ||||||||
InterPro | IPR022404 | ||||||||
SCOP | 1ddt | ||||||||
SUPERFAMILY | 1ddt | ||||||||
TCDB | 1.C.7 | ||||||||
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ジフテリア毒素(ジフテリアどくそ、英: diphtheria toxin)は、ジフテリアの原因となる病原性細菌であるジフテリア菌(コリネバクテリウム・ジフテリアエCorynebacterium diphtheriae)によって主に分泌される外毒素である。コリネバクテリウム・ウルセランスCorynebacterium ulceransや、コリネバクテリウム・シュードツベルクローシスCorynebacterium pseudotuberculosisの一部の株もこの毒素を産生する。毒素の遺伝子は、コリネファージβと呼ばれるプロファージ(宿主細菌のゲノムに挿入されたウイルス)にコードされている[1][2]。毒素はヒト細胞の細胞質に侵入し、タンパク質合成を阻害することで疾患を引き起こす[3]。
構造
ジフテリア毒素は535アミノ酸からなる1本鎖に由来し、2つのサブユニット(A、B)がジスルフィド結合によって連結された構成(A-B型毒素)をしている。Bサブユニット(2つのサブユニットの中で安定性が低い)が宿主細胞の表面へ結合し、Aサブユニット(安定性が高い)が細胞質基質へ移行する[4]。
ジフテリア毒素のホモ二量体型構造が2.5 Åの分解能で決定されており、3つのドメインからなるY字型の分子であることが明らかにされている。Aサブユニットには触媒を担うCドメインが含まれており、BサブユニットにはTドメインとRドメインが含まれている[5]。
- N末端のCドメイン(catalytic)は一般的でないβ+α型フォールドをとる[6]。Cドメインは、NAD+由来のADP-リボースを翻訳伸長因子eEF2のジフタミド残基へ転移することでタンパク質合成を遮断する[3][7]。
- 中心部のTドメイン(translocation、transmembrane)は複数のヘリックスからなるグロビン様フォールドをとるが、N末端側にさらに2つのヘリックスが存在し、最初のグロビンヘリックスに相当する部分は存在しない。このドメインは膜中でフォールドが解かれると考えられている[8]。pHの変化によるTドメインのコンフォメーション変化によってエンドソーム膜への挿入が開始され、Cドメインの細胞質基質への移行が促進される[3][7]。
- C末端のRドメイン(receptor-binding)は9本のストランドから構成され、グリークキーモチーフを有する2つのβシートが形成される。このフォールドは免疫グロブリンフォールドの下位分類である[6]。Rドメインは細胞表面受容体に結合し、受容体介在型エンドサイトーシスによって毒素の細胞内への移行を可能にする[3][7]。
機序

ジフテリア毒素は、NAD+由来のADP-リボシル基をeEF2の非典型的アミノ酸残基であるジフタミドへ転移することで、ADPリボシル化を触媒する(EC 2.4.2.36)。ジフタミドのADPリボシル化はeEF2の不活性化をもたらし、mRNAの翻訳を阻害する[3][7]。触媒される反応は次のようなものである。
- NAD+ + ペプチド上のジフタミド
ジフテリア毒素と同じ種類の言葉
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