ジフテリア毒素とは? わかりやすく解説

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ジフテリア毒素 [Diphtheria toxin]

 ジフテリア菌菌体外へ産生するタンパク質性の細菌毒素である。ジフテリア毒素は約100年前から知られ、E.von ベーリング(ドイツ)と北里柴三郎(日本)によるジフテリア抗毒素発見端緒として多く研究がなされ、細菌学免疫学発展基礎となった毒素である。一方細菌毒素としても、また、細菌タンパク質としても、初め純粋に精製・結晶化され、他の細菌毒素研究モデルとして、歴史的に重要な毒素である。
この毒素1本鎖ポリペプチド(アミノ酸重合体)で、毒素(酵素)活性を担うAフラグメント(構成部分)と、感受性細胞結合してAフラグメント細胞内へ運ぶ役目をするBフラグメントから成っている。どちらのフラグメント単独では毒性示さない。この毒素性状機能詳しく研究され、全構造決定された。ジフテリア毒素はアデノシン・二リン酸(ADP)-リボースニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(NAD)から、タンパク質合成される過程に働くポリペプチド鎖伸長因子(アミノ酸順次結合させてタンパク質にする酵素EF-2)へ転移させて、この酵素不活性化させることでタンパク質の合成阻害するまた、緑膿菌同様の酵素産生することが判っている。なお、ジフテリア毒素の構造ジフテリア菌ファージ(細菌ウイルス)の遺伝子DNA発現することによって決定されるので、このようなファージをもつ溶原(テンペレート・ファージが溶原化してプロファージをもつ細菌)のみがこの毒素産生する

ジフテリア毒素

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/12 15:00 UTC 版)

tox diphtheria toxin precursor
ジフテリア毒素タンパク質のリボン図
識別子
由来生物 Corynebacterium diphtheriae
3文字略号 tox
Entrez英語版 2650491
RefSeq (Prot) NP_938615
UniProt英語版 P00587
他データ
EC番号 2.4.2.36
染色体 genome: 0.19 - 0.19 Mb
検索
構造 Swiss-model
ドメイン InterPro
Diphtheria toxin, C domain
識別子
略号 Diphtheria_C
Pfam PF02763
Pfam clan CL0084
InterPro IPR022406
SCOP 1ddt
SUPERFAMILY 1ddt
TCDB 1.C.7
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
テンプレートを表示
Diphtheria toxin, T domain
識別子
略号 Diphtheria_T
Pfam PF02764
InterPro IPR022405
SCOP 1ddt
SUPERFAMILY 1ddt
TCDB 1.C.7
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
テンプレートを表示
Diphtheria toxin, R domain
識別子
略号 Diphtheria_R
Pfam PF01324
InterPro IPR022404
SCOP 1ddt
SUPERFAMILY 1ddt
TCDB 1.C.7
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
テンプレートを表示

ジフテリア毒素(ジフテリアどくそ、: diphtheria toxin)は、ジフテリアの原因となる病原性細菌であるジフテリア菌英語版(コリネバクテリウム・ジフテリアエCorynebacterium diphtheriae)によって主に分泌される外毒素である。コリネバクテリウム・ウルセランス英語版Corynebacterium ulceransや、コリネバクテリウム・シュードツベルクローシス英語版Corynebacterium pseudotuberculosisの一部の株もこの毒素を産生する。毒素の遺伝子は、コリネファージ英語版βと呼ばれるプロファージ(宿主細菌のゲノムに挿入されたウイルス)にコードされている[1][2]。毒素はヒト細胞の細胞質に侵入し、タンパク質合成を阻害することで疾患を引き起こす[3]

構造

ジフテリア毒素は535アミノ酸からなる1本鎖に由来し、2つのサブユニット(A、B)がジスルフィド結合によって連結された構成(A-B型毒素英語版)をしている。Bサブユニット(2つのサブユニットの中で安定性が低い)が宿主細胞の表面へ結合し、Aサブユニット(安定性が高い)が細胞質基質へ移行する[4]

ジフテリア毒素のホモ二量体型構造が2.5 Åの分解能で決定されており、3つのドメインからなるY字型の分子であることが明らかにされている。Aサブユニットには触媒を担うCドメインが含まれており、BサブユニットにはTドメインとRドメインが含まれている[5]

  • N末端のCドメイン(catalytic)は一般的でないβ+α型フォールドをとる[6]。Cドメインは、NAD+由来のADP-リボースを翻訳伸長因子eEF2ジフタミド英語版残基へ転移することでタンパク質合成を遮断する[3][7]
  • 中心部のTドメイン(translocation、transmembrane)は複数のヘリックスからなるグロビン様フォールドをとるが、N末端側にさらに2つのヘリックスが存在し、最初のグロビンヘリックスに相当する部分は存在しない。このドメインは膜中でフォールドが解かれると考えられている[8]pHの変化によるTドメインのコンフォメーション変化によってエンドソーム膜への挿入が開始され、Cドメインの細胞質基質への移行が促進される[3][7]
  • C末端のRドメイン(receptor-binding)は9本のストランドから構成され、グリークキーモチーフを有する2つのβシートが形成される。このフォールドは免疫グロブリンフォールドの下位分類である[6]。Rドメインは細胞表面受容体に結合し、受容体介在型エンドサイトーシス英語版によって毒素の細胞内への移行を可能にする[3][7]

機序

ジフタミド

ジフテリア毒素は、NAD+由来のADP-リボシル基をeEF2の非典型的アミノ酸残基であるジフタミドへ転移することで、ADPリボシル化を触媒する(EC 2.4.2.36)。ジフタミドのADPリボシル化はeEF2の不活性化をもたらし、mRNAの翻訳を阻害する[3][7]。触媒される反応は次のようなものである。

NAD+ + ペプチド上のジフタミド



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