『愛の歌』
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『愛の歌』(Amores、アモーレス)はエレギーア韻律の恋愛詩を集めた3巻本である。エレギーア韻律の恋愛詩の定型化はティブッルスとプロペルティウスにより行われた。エレギーアの発展にこの二人の詩人が寄与した部分は確かに大きい。しかしながら、このジャンルに革新をもたらした詩人はオウィディウスである。彼はこの詩形における主導者を、詩人からアモル(愛神)へと切り替えた。つまり、詩の詠み人が愛を勝ち取ることに焦点を当てるのではなく、人々の上にいる愛神の勝利に焦点を当てた。この転回は詩という文学ジャンル上、初の転回であった。オウィディウスの革新は「愛」という抽象概念のメタファーを用いたこと、つまり、愛のアレゴリー化に要約される。 3巻本の本書は、コリンナと呼ばれるある婦人と詩人との関係を中心に、愛の諸相を描写する。多彩な詩の中には、恋愛をしていく中で起こりうるいくつかの出来事が描写されるが、それは文学的な装飾と自由な語りを伴って読者に提示される。 第1巻は15編の詩を収める。第1歌でオウィディウスは、自分は叙事詩を書こうとしたのだと語る。ところがクピードーが私から脚韻を盗み、詠い続けることができなくなったため、それを恋愛悲歌に作りかえたのだ、という。第4歌は教訓詩の形式を取り、のちに『恋の技法』で展開することになる警句を述べる。第5歌は正午の逢い引きを詠う。また、恋人の名前がコリンナであることが明かされる。第8歌と第9歌は贈り物に惹かれるコリンナを描くが、第11歌と第12歌の描写で詩人の企みが失敗したことが示される。第14歌はコリンナが髪の毛を染めようとして大失敗した話である。第15歌ではオウィディウスをはじめ、その他の恋愛詩人の命も永遠ではないと強調される。 第2巻は19編を収める。巻頭の歌はオウィディウスがエレギーアのために巨人族との戦いをあきらめたことを語る。第2歌と第3歌は詩人がコリンナを護衛する供回りの者どもに、なんとか彼女に一目会わせてくれと頼むさまを詠う。第6歌はコリンナの飼っていた鸚鵡の死を悼む哀歌である。第7歌と第8歌はオウィディウスがコリンナの召使いに手を出し、それがコリンナに露見する事件を扱う。第11歌と第12歌はコリンナが休暇で遠くへ行ってしまうのを引き止めようとする内容。第13歌は病気になったコリンナの平癒をイシスに祈願する祈りの歌、第14歌は妊娠中絶に反対する歌、第19歌は油断している世の妻帯者たちへの警告の歌である。 第3巻は15編を収める。第1歌は擬人化された「悲劇」と「哀歌」がオウィディウスを巡って争う様が詠われる。第2歌は競馬大会に行く描写があり、第3歌と第8歌では他の男たちにこころ惹かれるコリンナの女心が主題である。第10歌は地母神ケレースへの恨み歌である。なぜならこの女神の祭には禁欲が求められるからである。第13歌はユーノー祭についての歌、第9歌はティブッルスに捧げる哀歌である。第11歌でオウィディウスはこれ以上コリンナを愛するのは止そうと心に決める。そして彼女について詩を詠んだことに後悔する。最終の第15歌は詩人の愛をかき立てたミューズ(コリンナのこと)への告別の歌である。『愛の歌』はこれまでのところ、自意識に溢れ、非常に雄弁なエレギーア詩の作例であると評価されている。
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