警視総監 警視総監の概要

警視総監

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/02 03:49 UTC 版)

歴史

近代警察制度の黎明期である1874年1月15日東京内務省の機関として東京警視庁が設置され、その長には、後年「日本警察の父」と呼ばれた川路利良が任命された。長官の呼称は「警視長」「大警視」と名を変えたが、1881年1月14日、警視庁が再び設置された際に「警視総監」と定められた。

内務大臣に直属し、内務次官警保局長とともに「内務三役」と呼ばれた重職であり、勅任官である高等官一等または二等(陸海軍中将または少将と同格。府県知事と比較しても上位または同格)の者が補された。とくに一等官在職6年以上で警視総監である者は、親任官待遇の対象となった。貴族院議員に勅選されるなど退任後も栄達した者が多い。

内務大臣の指揮監督を受け、東京府1943年から東京都)の警察・消防と内務大臣が特に指定する衛生事務を管理し、各省の主務に関する警察事務については、各省大臣の指揮監督を受けた。

敗戦後、1947年に制定された警察法(昭和22年法律第196号)により内務省は解体・廃止され、明治以来の国家警察は一旦幕を閉じ、新たに「国家地方警察」と「自治体警察」(市町村警察)の二本立てとした。特別区(旧東京市)の区域は、特別区が連合して自治体警察を置くものとした(警察法第3章第4節)。このため東京都は1948年3月2日、「警視庁設置等に関する条例」(昭和23年東京都条例第22号)を公布し、自治体警察の名称を「警視庁」、長である警察長の名称を「警視総監」と定めた。1948年3月7日、警察法施行に伴い、高級官吏であった警視総監は、地方公務員(特別区の警察長)の職名として残された。警視庁 (旧警察法)には、警視総監などを除いて主に傍系や巡査から特進で昇進した非高文組が配属された[1]

一方、内務省警保局の後継である国家地方警察本部は、旧警視庁本部に「国家地方警察東京都本部」を設置。本来は、国家地方警察東京都本部は、東京のうち、自治体警察を置かない町村(市及び人口5000人以上の町村には自治体警察を置いた)についてのみ警察機能を行うものであるが、実際は公安警察などの国家警察機能を継承した。国家地方警察東京都本部には、高文組の旧内務官僚のエリートが配属された[1]

1949年9月GHQの意向で大阪市警視庁が設置され、トップが警視総監を名乗った。こうした風潮が日本全国の自治体警察に広がりはじめ、勝手に警視庁や警視総監を名乗るところが出てくるようになっていた[2]

1954年7月1日、警察法の全部改正(昭和29年法律第162号)に伴い、国家地方警察と自治体警察は廃止となり、新たに警察庁都道府県警察が設置された。これにより警察機構は一本化されて事実上、国家警察が復活した。また、「都警察に警視総監を」置く(警察法第48条)ことが再び定められ、警視総監は国家公務員(警察法第56条)であり、警察官の階級の最高位(警察法第62条)であるとされた。これにより、国警が主導権を握る形で、国家地方警察東京都本部と警視庁 (旧警察法)の廃止と再編成が行われ、都警察の本部として現在の警視庁が設置された(警察法第47条)。

地位

東京都の治安を司る警視庁の長であり、道府県警察本部長と同じく、「警察庁の所掌事務について」は全国の警察を司る警察庁の長である警察庁長官の指揮監督を受ける。一例として、内閣総理大臣が警察法第71条による緊急事態の布告を発した場合は、その布告の実施に関して警察庁長官の指揮命令に服する。

その地位は、一般職国家公務員法2条3項で特別職となっていない)の国家公務員で、地方警務官たる警察官である。日本の警察官の階級としては最高位だが、日本の警察官の最高位は階級制度の外に置かれる警察庁長官であるため、警視総監は日本の警察官としては第2位の序列となる。警視総監は警視監警察庁次長より上位であるが、次長は全国組織を統括する長官の次席であるため、長官が不在の場合は総監が次長の指揮命令を受ける事もある。また現在は警察庁次長が次期警察庁長官となるのが慣例となっているため、退任後に警察庁長官に就任した警視総監は近年では例がないが、過去に第60代警視総監であった斎藤昇が、警視総監退任後、旧警察法施行下での国家地方警察本部長官を経て、新警察法施行・警察庁発足時に初代警察庁長官に就任した例が存在する。階級的に降格となってしまう次長への転任は当然ながら例がない。実質、警察官僚の「あがり」は、警察庁次長→警察庁長官と、警視総監の2コースに分かれる形となっているが、稀に警察庁次長から警視総監に就任する例も存在する。

俸給は「指定職7号俸」が国庫から支給される。これは指定職最高の8号俸が適用される一般職の内閣法制次長、警察庁長官、事務次官宮内庁次長金融庁長官消費者庁長官、特別職の統合幕僚長などに次ぎ、内閣府審議官公正取引委員会事務総長財務官外務審議官等のいわゆる省名審議官、国税庁長官海上保安庁長官と、特別職陸上幕僚長海上幕僚長航空幕僚長らと同等[注釈 1]である。

階級章は警視監までのそれとは異なり、制服上衣両肩の肩章にそれぞれ金属の日章4個を1行に配置する[注釈 2]。識別章はない。

定例で天皇進講をするほか、交代に際しては、新旧警視総監は皇居に招かれ、天皇が出席して「お茶」を供される[注釈 3]

定年

定年は62歳[3]。退官後は、慣例として70歳以降の春秋叙勲で、警察庁長官であった者と同じく瑞宝重光章を授与される[注釈 4]


注釈

  1. ^ 従前は、人事院規則9-42(指定職俸給表の適用を受ける職員の俸給月額)により官職ごとに指定職俸給表の号俸が定められていたが、現在では一般職の職員の給与に関する法律 - e-Gov法令検索第6条の2の規定で「指定職俸給表の適用を受ける職員(会計検査院及び人事院の職員を除く。)の号俸は、国家行政組織に関する法令の趣旨に従い、及び前条第三項の規定に基づく分類の基準に適合するように、かつ、予算の範囲内で、及び人事院の意見を聴いて内閣総理大臣の定めるところにより、決定する。」となっている。この人事院の意見は毎年予算成立直後に行われ公表されている。直近のものが指定職俸給表の適用を受ける職員の号俸の定め並びに職務の級の定数の設定及び改定に関する意見の申出(平成31年3月28日)
  2. ^ 警察庁長官は「警察庁長官章」(長官を示す標章であり階級章ではない。日章5個)を同様に着ける。
  3. ^ 宮内庁ホームページ 天皇皇后両陛下のご日程 。進講は一部の年を除き年度毎に行われている。道府県警察本部長では、行幸行啓、「お成り」における随従・送迎や警察本部長会議参集時の拝謁等特別の場合を除き、皇室関係の日程は見当たらない(新旧警視総監への「お茶」(皇室の用語。実際には酒食が供される)は2010年2月8日に行われた例から公表されている)。
  4. ^ 栄典制度改正前の2003年4月29日の叙勲までは勲二等旭日重光章が授与されていた。なお、警察庁各局長警察大学校長、大阪府警察本部長、北海道警察本部長等で退官した者への叙勲はいずれも瑞宝中綬章が贈られる。
  5. ^ 改正前の警察法第52条の2第2項はこの点について、「前項の(特別区公安委員会が特別区の警察長を罷免する)場合においては、特別区公安委員会は、内閣総理大臣の意見を聴かなければならない」としていた。
  6. ^ 例えば、大阪府警察の長は大阪府警察本部長であり、警視監が国家公安委員会から「大阪府警察本部長を命ずる」発令を受け就任する。
  7. ^ 官報(第5613号)平成23年8月8日8頁によれば、警視総監の発令は「警視総監に任命する」という任命辞令のみで、補職辞令はない。道府県警察本部長の場合、例えば昇任と同時に発令する際は、「警視長に任命する」「青森県警察本部長を命ずる」などと、任命辞令に続き補職辞令が併記される。
  8. ^ 自治体警察としての大阪市警視庁の警察長の名称は東京と同じく「警視総監」とされた。詳細は大阪市警視庁を参照。
  9. ^ 現行の「警視長」とは別。
  10. ^ 1874年8月4日以前も、制度上は東京警視庁の長は警視長(3等)で大警視(5等)は次位であったが、警視長は任命されず、川路が事実上のトップとして大警視に任命された。川路は1874年8月4日付けで警視長に昇任、1874年10月15日には警視長から改められた大警視(3等)に引き続き任命されている。

出典

  1. ^ a b 毎日新聞社編 『官僚にっぽん』 毎日新聞社 p37
  2. ^ 『法学セミナー増刊・総合特集シリーズ36 警察の現在』 日本評論社 p62
  3. ^ 国家公務員法第81条の2 第2項第3号、人事院規則11-8 第4条および別表
  4. ^ 衆議院会議録 第019回国会地方行政委員会第24号
  5. ^ 衆議院会議録 第015回国会地方行政・法務委員会連合審査会第1号
  6. ^ “宮内庁長官に山本氏 閣議決定”. 日本経済新聞. (2016年9月23日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG22H3X_T20C16A9EAF000/ 2016年9月27日閲覧。 
  7. ^ “危機管理監に高橋前警視総監”. 日本経済新聞. (2016年9月23日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS23H3Q_T20C16A9EE8000/ 2016年9月27日閲覧。 
  8. ^ “警視総監に沖田氏 閣議で承認”. 日本経済新聞. (2016年9月16日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG15H7T_W6A910C1EAF000/ 2016年9月27日閲覧。 
  9. ^ “警視総監に吉田氏”. 日本経済新聞. (2017年9月8日). https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG07H70_Y7A900C1EAF000/ 2017年9月8日閲覧。 
  10. ^ “第95代警視総監に三浦氏 警察庁次長から異例の人事”. 朝日新聞. (2018年9月7日). https://www.asahi.com/articles/ASL954T1PL95UTIL031.html 
  11. ^ “警察庁長官に松本氏が昇格 警視総監に斉藤氏”. 日本経済新聞. (2020年1月14日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54347660U0A110C2CE0000/ 






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