日本の世界遺産 新たな暫定リスト追加の可能性

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日本の世界遺産

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/31 13:35 UTC 版)

新たな暫定リスト追加の可能性

ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)の国内組織「日本イコモス国内委員会」は2017年に、将来的に世界遺産になる可能性がある日本の20世紀遺産を選定している。

同委員会の岡田保良副委員長(国士舘大教授)は2018年2月8日に宮崎県庁で行われた講演の中で、「政府が選定する国内の推薦候補地について、2019年度までに追加など見直し作業を行う可能性がある」との見解を示したが[29]、実現しなかった。

さらに同委員会は上掲文化遺産推薦に向けた公募の内、「松島の貝塚群」は「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」に加えることを検討すべきと示唆したり、松本城は暫定リスト掲載の彦根城や公募に名乗りを上げなかった犬山城と合わせて既登録の姫路城への「近世日本の木造天守閣式城郭」といったような枠組みでの拡張登録にすべきとしている[24]

また、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の登録に尽力し内閣官房参与も務めた加藤康子黒部ダム[30]、そして日本イコモス国内委員会委員長・文化審議会世界遺産特別委員会委員長を務めた西村幸夫と元ユネスコ事務局長の松浦晃一郎らも黒部に加え立山の砂防システムの登録の可能性を公言しており、立山の自然環境を含めれば複合遺産の可能性もあると示唆している[31]。特に西村は今後の日本の世界遺産について、ユネスコが認める保存活用事例(アダプティブユース遺産と創造性)も勘案しつつ、近代化遺産産業遺産稼働遺産としての土木土工構築物戦後建築に移行せざるをえないのではないかと言及[32][注 8]。また、特定地域の文化財を推すのではなく、例えば各地の日本庭園茶室などを一つのテーマとするオールジャパン体制のシリアルノミネーションも有効とする[33]

2023年7月4日に文化審議会が彦根城と飛鳥・藤原の取り扱いについての方向性を示した際、2030年代の登録候補となるものの選定を始めるとし[14]、2024年になり文化審議会世界文化遺産部会の下に「今後の我が国の世界文化遺産の候補として暫定一覧表に記載することが適当と考えられれる資産の具体的な検討を行うためのワーキンググループ」を設置した[34]

既存登録地の京都ではかねてから古都京都の文化財の拡張登録が取り沙汰されているほか、群馬で富岡製糸場と絹産業遺産群の拡張登録や、和歌山でも紀伊山地の霊場と参詣道の再拡張登録(未登録の紀伊路)を目指す動きもある。

自然遺産に関しては、日本の世界遺産条約締約作業に携わった筑波大学吉田正人が、上記の「自然遺産推薦に向けた選定」は気候地形に応じた植生を基にユネスコと自然遺産諮問機関の国際自然保護連合(IUCN)が重視する生物多様性固有種生態系を中心としたものであると指摘した。その観点からすれば「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」をもって打ち止めの感はあるが、(1)ユネスコとIUCNが推奨する海洋域への展開として除外された奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島の海洋域や小笠原諸島の海洋域への拡張登録、(2)登録基準ⅷが示す「地球の歴史」については第1に地質分野として生物圏が評価された小笠原諸島の中から西之島だけ分離独立させることの現実性[注 9]、第2に太平洋プレート北米プレートユーラシアプレートフィリピン海プレートの4つが衝突する上に形成された弧状列島の特異さと地震火山にみられる現在進行形の地質活動が物語るダイナミックな地球の胎動を表現すること、また第3に公海の世界遺産への注目を受けた海底域からの世界遺産推薦の可能性を挙げ、日本海溝伊豆・小笠原海溝などのプレート境界線、その延長線上に位置する小笠原諸島-伊豆諸島伊豆半島丹沢山地を一体的に捉えた視点の検討を提唱する[35]

加えて吉田は、1982年にIUCNが発行した『世界の優れた自然地域』(The World's Greatest Natural areas)に将来の自然遺産候補として阿寒国立公園日光国立公園富士箱根伊豆国立公園が上げられており、いずれも「自然遺産推薦に向けた選定」で俎上(そじょう)した後、日光日光の社寺として、富士山富士山-信仰の対象と芸術の源泉として文化遺産に鞍替えして登録された点に着目すると文化的景観の要素も含む複合遺産の可能性も示唆し、日光は男体山中禅寺湖から流れ落ちる華厳滝など自然崇拝の要素、富士山は前述の海底から地上に至る地質活動の終着点として、さらに阿寒湖界隈はアイヌ文化との密接な関係を備えるとした[35][注 10]


  1. ^ 橋野鉄鉱山の採掘場と運搬路を含む。
  2. ^ リファレンスナンバーは暫定リスト掲載時に振られる管理番号で、登録後に世界遺産リスト掲載時に与えられるIDとは異なる。
  3. ^ 支石墓は現在の北朝鮮や中国東北部でも造られたが、中国においては文化大革命で悉く破壊され現存していない
  4. ^ 足利学校、弘道館、閑谷学校は2011年に「近代の教育遺産」(茨城県、栃木県、岡山県、大分県)として推挙。
  5. ^ 「北海道・北東北の縄文遺跡群」とは別件。
  6. ^ 山形県では2009年6月に現職を破って知事に当選した吉村美栄子が、登録推進事業の中止を打ち出した[25]
  7. ^ 知床は2005年に、小笠原諸島は2011年に、それぞれ世界遺産登録。奄美・琉球は2020年に審議予定であった。
  8. ^ 黒部・立山では、使われなくなったレンガ造りの黒部川第二発電所を再利用した下山芸術の森発電所美術館や世界的建築家・磯崎新による立山博物館展示館など、西村が指摘する条件に沿う施設も充実している。
  9. ^ 小笠原の登録基準ⅷを追加する「軽微な変更」の方が現実的。
  10. ^ 阿寒湖では「自然遺産推薦に向けた選定」の際に評価対象とされなかったマリモの生育圏を自然遺産にする動きがある。
  11. ^ ヘリテージツーリズム世界遺産と博物館の計画。
  12. ^ オーバーツーリズムによる環境負荷軽減を目指した来訪者コントロール、また世界遺産がクラスター発生地とならぬよう新型コロナウイルス感染拡大防止の観点も含む。
  13. ^ 「世界遺産リストにまだ充分に反映されていない分野」とは以下を指す。産業遺産・土木遺産・運河文化の道20世紀建築近代都市都市遺産聖なる山岩絵先史時代遺跡・化石人類遺跡。
  14. ^ 上掲「暫定リストへの越境遺産の提案」での東アジア・オーストラリア地域フライウェイは生物多様性の観点から可能性を秘めているが、世界遺産に求められる完全性の法的保護根拠が障壁となる。ラムサール条約指定地だけでは充分ではなく、渡り鳥条約は日本と相手国の二国間条約でしかなく、移動性野生動物種の保全に関する条約は未批准である。

出典

  1. ^ 紅葉の合掌造りに水柱輝く 白川郷で放水訓練”. 産経ニュース (2021年11月7日). 2021年11月7日閲覧。
  2. ^ a b 我が国の暫定一覧表記載文化遺産”. 文化庁. 2017年5月26日閲覧。
  3. ^ a b Tentative List (Japan)” (英語). 2017年5月26日閲覧。
  4. ^ 世界遺産、鎌倉推薦の活動休止 県と3市」『神奈川新聞』、2019年11月22日。2019年11月23日閲覧。
  5. ^ 彦根城、世界遺産へ一歩 県と市が推薦書原案を提出」『中日新聞』、2020年4月3日。オリジナルの2020年4月4日時点におけるアーカイブ。
  6. ^ 20年度の世界遺産候補の選定見送り」『共同通信』、2020年6月29日。オリジナルの2020年6月29日時点におけるアーカイブ。
  7. ^ 彦根城、世界遺産登録へ「盛り上がり課題」 暫定リスト記載から約30年経過」『京都新聞』、2021年4月3日。
  8. ^ 彦根城の推薦書素案提出 世界遺産24年登録目指し」『産経新聞』、2022年6月29日。2023年8月10日閲覧。
  9. ^ a b 世界遺産登録へ1年お預け びわ湖放送 2022年8月3日[リンク切れ]
  10. ^ 今後の世界文化遺産への推薦に係る文化審議会意見について”. 文化庁 (2023年7月4日). 2023年7月5日閲覧。
  11. ^ 「[sankei.com/article/20200331-ESFZA75ODJMZJMACT73BEETSTU/ 「飛鳥・藤原の宮都」を世界遺産登録へ 県が推薦書素案提出]」『産経新聞』、2020年3月31日。2023年8月10日閲覧。
  12. ^ 世界文化遺産へ 「飛鳥・藤原」の推薦書素案に「万葉集」も」『NHK』、2021年3月30日。
  13. ^ 「残された階段が見えてきた」奈良の荒井知事らが世界遺産登録目指す『飛鳥・藤原』」『MBSnews』、2022年6月29日。 [リンク切れ]
  14. ^ a b “「彦根城」と「飛鳥・藤原の宮都」 世界文化遺産登録目指し検討始まる”. FNNニュース. (2023年7月4日). https://www.fnn.jp/articles/-/551841 2023年8月10日閲覧。 
  15. ^ 政府、佐渡金山の世界文化遺産推薦書を提出」『産経新聞』、2022年2月1日。2023年8月10日閲覧。
  16. ^ 佐渡金山の書類不備は2月に指摘、世界遺産登録へ「大失態」 自民で批判続出」『産経新聞』、2022年7月29日。2023年8月10日閲覧。
  17. ^ ライト建築が世界文化遺産へ… 芦屋の旧宅も将来の追加候補に」『読売新聞』、2019年7月5日。2019年7月5日閲覧。
  18. ^ “Mégalithisme dans le monde”. Radio Franceポッドキャスト配信. (2022年10月22日). https://www.radiofrance.fr/franceculture/podcasts/carbone-14-le-magazine-de-l-archeologie/megalithisme-dans-le-monde-6039874 2023年1月8日閲覧。 
  19. ^ 「出島 世界遺産候補に」『西日本新聞』、2010年2月18日、1面。
  20. ^ “World Natural Heritage & Biodiversity: The Conservation and Sustainable Development of Coastal Migratory Bird Sanctuaries” side event at 44th session of the World Heritage Committee meeting, China - Eaaflyway” (2021年7月28日). 2021年8月4日閲覧。
  21. ^ 「鳴門の渦潮」世界遺産に ノルウェー、スコットランドと連携を 万博で国際シンポも 推進協総会」『神戸新聞』、2024年3月19日。2024年3月23日閲覧。
  22. ^ 西村幸夫 (2008). “暫定リストの近況”. 世界遺産年報2008. 日経ナショナルジオグラフィック社. p. 38 
  23. ^ 佐滝 2009, p. 172-173.
  24. ^ a b 世界遺産暫定一覧表候補の文化遺産
  25. ^ 佐滝剛弘『「世界遺産」の真実 - 過剰な期待、大いなる誤解』祥伝社祥伝社新書〉、2009年、188-191頁。 
  26. ^ 日本ユネスコ協会連盟『世界遺産年報2004』平凡社、47-49頁。 
  27. ^ 「国際的要素」以外は世界自然遺産候補地に関する検討会(環境省、2018年1月11日閲覧)による。
  28. ^ 平成25年度世界自然遺産候補地等調査検討業務報告書 環境省 (PDF)
  29. ^ 世界遺産候補追加も 諮問機関の副委員長講演」『宮崎日日新聞』、2018年2月9日。2018年2月9日閲覧。
  30. ^ 【産業革命遺産】長年の夢かなった 世界遺産登録に尽力した加藤康子内閣官房参与 47NEWS
  31. ^ 『日本固有の防災遺産 立山砂防の防災システムを世界遺産に』ブックエンド、2015年、[要ページ番号]頁。 
  32. ^ 『TOMIOKA 世界遺産会議 BOOKLET7』上毛新聞社、2016年、[要ページ番号]頁。 
  33. ^ 朝日新聞 2021年11月3日(ネット配信記事は有料)
  34. ^ 世界文化遺産部会の設置について (PDF) 文化庁 2024年4月16日
  35. ^ a b 吉田正人『世界遺産を問い直す』山と溪谷社〈ヤマケイ新書〉、2018年、[要ページ番号]頁。 
  36. ^ “新潟)世界遺産候補、選定せず 佐渡金山関係者「残念」”. 朝日新聞. (2020年6月30日). https://www.asahi.com/articles/ASN6Y7X0BN6YUOHB00R.html 2024年1月4日閲覧。 
  37. ^ 文化審議会世界文化遺産部会(第2回)議事次第
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  40. ^ 遺産影響評価
  41. ^ Rural Landscapes ICOMOS-IFLA Principles concerning rural planeta.com(英語)、2020年4月14日
  42. ^ 文化審議会世界文化遺産部会(第5回)議事次第
  43. ^ 文化審議会世界文化遺産部会(第6回)議事次第
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  46. ^ UNESCO Revises Its Climate Policy Union of Concerned Scientists(英語)、2021年7月31日
  47. ^ 国立公園などの保護区「世界の陸海域の30%に」…国連事務局が次期目標草案 読売新聞 2021年7月24日
  48. ^ 文化審議会世界文化遺産部会(第3回)議事次第





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