組成と成分
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/12 09:30 UTC 版)
おもな組成 組成を見ると、おもに石英、長石、雲母、緑泥石、カオリナイト、方解石(炭酸カルシウム)、石膏(硫酸カルシウム)、硫酸アンモニウムなどからなる。日本の普通の表土に比べるとカルシウムの含有率が高いことが特徴のひとつである。 なお、砂漠に多く黄土にはない石膏が含まれていることから、黄砂は砂漠由来であるとする見方があるが、石灰岩などの主成分である炭酸カルシウムが硫酸アンモニウムと反応して石膏となることが知られており、必ずしも砂漠由来であるとは限らないとする見方もある。2002年4月に黄砂の発生・飛来地域で行われたエアロゾルの成分分析では、カルシウム鉱物に占める石膏の割合が、東の地域にいくほど増加していた。 吸着成分 粒子の種類によって度合いは異なるものの、黄砂は空気中のさまざまな粒子を吸着する。北京など中国の主要都市では、黄砂が増加する冬季にエアロゾルの量が増加するためその多くが黄砂であると考えられているが、黄砂発生地の土壌・エアロゾルと中国主要都市のエアロゾルの成分を比較すると、後者のほうが硫酸イオンや硝酸イオン、重金属である鉛の濃度が高くなっていた。また実験により、黄砂の粒子が触媒となって、二酸化硫黄ガスが黄砂粒子の表面に吸着されて反応し硫酸イオンになることや、中国主要都市の大気に多く含まれる硫酸アンモニウムが、湿度が高いときに黄砂に吸着され、黄砂中のカルシウムがアンモニアと置換反応して硫酸カルシウム(石膏)になることも分かった。 黄砂は上空を浮遊しながら次第に大気中のさまざまな粒子を吸着するため、その成分は発生する地域と通過する地域により異なると考えられている。中国・韓国・日本などの工業地帯を通過した黄砂は硫黄酸化物や窒素酸化物を吸着すると考えられているが、中国と日本の茨城県つくば市でそれぞれ採取された黄砂の成分調査によると、つくば市のものは二酸化窒素(NO2)や硫酸水素(HSO4)が増加しており、これを裏付けている。さらに、通過する地域や気象条件(汚染地域への停滞の様子など)によって、同じ地点で観測される黄砂においても、黄砂中の汚染成分の濃度が毎回変化し、汚染成分の多い黄砂と少ない黄砂の2パターンがあることも分かっている。 原子組成分析 2001年にアジアの黄砂発生源を3つに区分(中国西部・中国北部・黄土高原)して行われた黄砂の原子組成分析では、質量が多い順にケイ素が24 - 30%、カルシウムが7 - 12%、アルミニウムが7%、鉄が4 - 6%、カリウムが2 - 3%、マグネシウムが1 - 3% ほどを占めた。このほか、微量のマンガン、チタン、リンなどが検出された。また、北京の浮遊粒子状物質(PM10)および長崎県壱岐の黄砂の分子組成分析では、どちらも二酸化ケイ素(SiO2)がもっとも多く、次いで酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化カルシウムなどが多く検出されている。なお、北京では大気汚染物質であるカーボン(すす)が多く検出されたほか、壱岐では北京よりも二酸化ケイ素の割合が高かった。 鳥取県衛生環境研究所の調査では、2005年4月に黄砂を含む大気中の成分を調べたところ、平均値に比べてヒ素が22倍、マンガンが13倍、クロムが7倍、ニッケルが3倍という高い数値を記録しており、黄砂の飛来時には大気の成分が通常とは異なることを示唆している。 ダイオキシン類 黄砂飛来時に大気中のダイオキシン類の濃度が増加するとの調査結果も出ている。台湾中央研究院環境変遷研究センターの調査では、大気中の濃度が通常時よりも35%増加するとの結果が出ている。一方、2001年から2007年にかけて石川県で行われた調査では、黄砂飛来時であってもダイオキシン類の濃度上昇は見られなかった。 細菌、カビ、病害 韓国農村振興庁が黄砂を採取して行った検査では、地域差があるものの、細菌の濃度が通常の大気の7 - 22倍、カビの濃度が15 - 26倍と高かった。黄砂が飛来するときに細菌やカビを吸着し、それが繁殖しやすい気温や湿度となるためではないかとされており、人間や家畜・作物への影響が懸念されている。また、韓国の研究チームが2003年、黄砂の飛来する前後に行った疫学調査では、尿の成分測定で多環芳香族炭化水素(PAH)に属する発ガン性物質が平均で25%増加した。 黄砂のあとに麦の病害である黒さび病が増加することは日本で知られていたが、研究により同じく麦の病害である黄さび病の胞子も毎年黄砂とともに日本に飛来することが分かっている。 また、採取した黄砂を培養液に入れるとカビ類、グラム陽性菌、酵母菌類などが検出されたとの研究報告がある。 大気中を進むうちに、日光に含まれる紫外線によって細菌の一部は死滅すると考えられているが、化学物質が分解されて有害なものになることも懸念されている。 放射性降下物に由来するセシウム137 「放射性降下物」、「核実験の一覧」、および「チェルノブイリ原子力発電所事故」も参照 放射性物質の「セシウム137」は黄砂の砂塵に含まれて飛来する。中国北部の草原を調査した日本の文部科学省科研費「黄砂に含まれる放射性セシウムの起源推定」による平成19年度(2007年度)の研究成果によると、表面2センチの土壌が比較的高濃度のセシウム137、いわゆる放射性物質に汚染されていた(地表2センチの表土1キロあたり5.5ベクレルから86ベクレル)。この調査地域では、降水量が少ないためセシウム137が土壌の下方に浸透しづらく、さらに草原が表土の侵食を抑制するため、セシウム137が表土に高濃度の状態で残っていたのである。このセシウム137であるが、これは現行の核実験施設などではなく、1980年代以前の地球規模の放射性降下物(大気圏内核実験・原子力事故などにより発生)に由来するものであった(年間降水量とセシウム137の蓄積に正の相関があるために判明した)。
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