C-17 (航空機) C-17 (航空機)の概要

C-17 (航空機)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/29 06:28 UTC 版)

C-17は、マクドネル・ダグラス(現ボーイング)社が製造し、アメリカ空軍が保有・運用する、主力の軍用長距離輸送機である。愛称はグローブマスターIII(Globemaster III)で、旧ダグラス・エアクラフト社の開発した輸送機C-74 グローブマスターC-124 グローブマスターIIに由来している[1]

概要

C-17は、C-5戦略輸送機に近い大型貨物の長距離空輸能力と、C-130戦術輸送機並みの短滑走距離での離着陸が可能な性能を持つ大型輸送機である。

アメリカ空軍では、研究開発機を除く223機を航空機動軍団(AMC/Air Mobility Command)、太平洋空軍(PACAF/Pacific Air Force)、航空教育訓練軍団(AETC/Air Education and Training Command)、空軍予備役軍団(AFRC/Air Force Reserve Commnad)、州兵航空隊(ANG/Air National Guard)に配備しているほか、平和維持活動や人道支援によるの海外派遣が世界的に増えたことからその長距離・大型輸送能力が評価され、他国でも採用が広がっていた。

しかし、国際的な軍事費削減の動きなどを受け、ボーイング社は2015年をもってC-17の製造ラインを閉鎖した。その後、アメリカ国内からも中国脅威論が現実の問題として認識されるようになり、中東での多国籍軍による対テロ戦争が継続している事から生産の継続もしくは、C-5Mのように初期の生産分を近代化する改修工事工程を設ける提案がなされている[2]

特徴

アメリカ陸軍のすべての装甲戦闘車両航空機の搭載が可能で、C-5戦略輸送機の最大ペイロードの65%近くとなる77トンの貨物搭載ができる。

上から見たC-17
60トン近い自走砲が搭載可能な貨物室
コックピット
操縦桿
搭載例

最大ペイロードでの航続距離4,440 km、離着陸距離910m。先進中型短距離離着陸輸送機計画(AMST)において試作されたYC-15が実証したEBF(Externally blown flap)方式のパワード・リフト・システム(Powered lift system)を用いてSTOL性能を確保している。これは、エンジン噴射流を主翼下面とスロッテッド・フラップに吹き付けて揚力を増す方式である。

スラスト・リバーサーは車輪の制動力が期待できない不整地への着陸を考慮し強力で、4基のエンジン全てに装備、バイパス比の大きなターボファンエンジンに使用されるファンコールドストリーム型だけでなく、燃焼ガスにはクラムシェル型を併用することにより100%の逆噴射が行える、また上方へ噴射することで、未舗装滑走路で異物を巻き上げ、エンジンに吸い込むことによる故障(FOD)を最小限にしている。これらにより、戦略輸送機と戦術輸送機を兼ねられる機体としているが、厳密には降着装置の接地圧が致命的に高く、後者の条件は満たしていない。

C-17は太い胴体とともに、横に突き出したスポンソン部に4ユニット計12個の車輪を収めることで、大きな貨物の搭載を可能としている。貨物の積み下ろし口は後部ランプのみであるが、油圧ウインチと8列ローラー・コンベアによる省力化で、1人のロードマスターでも卸下運用が行えるようになっている。

コックピット内部は広く、2名のパイロット席後部の2名分の追加乗員席に加えて、ギャレーや2名分のベッドが備えられている[1]。計器は4基の多機能ディスプレイを備えたグラスコックピットとなっており、輸送機としては世界で初めてヘッドアップディスプレイを採用した。操縦装置はフライ・バイ・ワイヤで操縦輪ではなく操縦桿を採用しているが、配置はサイドスティック方式ではなく、床から伸びた台座に操縦桿を設置する変則的なセンター配置である。また、前部胴体の右側にはロードマスター用の操作席が設けられている。

多くの用輸送機と同じく高翼配置の主翼ターボファンエンジンを4基搭載し、T字尾翼となっている。翼端にはウィングレットを装備している。また、19tまでの低高度パラシュート抽出システム(LAPES)に対応している。

生産71号機以降は中央翼部に燃料タンクが増設されて航続距離が延び、ボーイング社ではこの型をC-17ERと呼んでいる。

推力向上型エンジンと新型フラップシステムの導入によって離着陸性能を向上させ、滑走路面への荷重分散のため中央胴体下に主脚を1本増設するC-17Bも計画されていたが実現しなかった[3]

歴史

YC-15

アメリカ空軍は、1970年代にC-130の後継機計画を模索しており[4]先進中型短距離離着陸輸送機計画(Advanced Medium STOL Transport, AMST)によってボーイングYC-14を、マクドネル・ダグラスYC-15を提案した[5]。両者の提案は空軍の要求するスペックを上回ったものであったが、開発段階に進む前にAMSTは中止となってしまった。その後1979年11月に米次期輸送機計画C-X(Cargo experimental)としてAMSTは再開された[6]1980年にアメリカ空軍は老朽化したC-141を大量に保有していたが、空軍は迅速な展開を必要とする空輸のために、戦略的空輸能力の向上を必要としていた。1980年10月、空軍はC-XのRFP(提案依頼書)を発表した。マクドネル・ダグラスはYC-15をベースにした新型機を開発し、ボーイングは、AMSTのYC-14を拡張させた機体を、ロッキードは、C-5をベースにした機体とC-141を拡張した機体の2種類を提案した。1981年8月28日、マクドネル・ダグラスがC-17の開発を担当することが決定した。YC-15との違いは、後退翼であること、機体サイズが大きくなっていること、エンジンが強力になっていることなどである。C-17の開発によってC-141の任務とC-5の担っていた大型貨物輸送の一部を行うことができる[7]

C-Xの選定後も、空輸のニーズを満たすためにC-141AをC-141Bに改良する案、C-5を増産する案、KC-10を継続購入する案、民間予備航空隊を活用する案などの代替案が出た。予算や技術的な問題で4年間の延期を余儀なくされたが、この間に予備設計作業とエンジン認証のための契約が結ばれ[8]1985年12月31日に全規模開発契約が結ばれた[9]。原型機のロールアウトが1990年12月となった。初飛行は1991年9月15日に、カリフォルニア州ロングビーチ工場で行われた。部隊への配備開始は1993年7月であり、第437空輸航空団から開始された。その後も、価格性能比問題[10] により調達に遅れが生じたりしたが、問題払拭後は発注数が増加している。

C-17は開発目標をおおむね達成し、その性能に高い評価が与えられており、近年のアメリカ軍中東展開には、欠かせないものとなっている[1]

ノーザン・ディレイ作戦・機上のドラゴン作戦

C-17は、イラク戦争におけるアメリカ軍初のエアボーン作戦に参加したことで知られている。

2003年3月26日アルビール州北部のバシュール飛行場奪取を目的として、ノーザン・ディレイ作戦英語版が発動された。本作戦には、地上部隊として第173空挺旅団から旅団長ウィリアム・C・メイヴィル大佐を含む954名が、航空部隊として第62、315、437、446空輸航空団より26機のC-17が参加した。

深夜、地上部隊を搭乗させたC-17がイタリアアヴィアーノ空軍基地より飛び立った。パラシュート降下は高度300mの低空にて実施され、午後8時10分から25分間で全隊員が降下した。夜闇と強風によって降下部隊は分散し、兵力の集結には時間を要した。しかし、アメリカ特殊部隊に支援されたクルド人民兵ペシュメルガ」と連携しており、また、敵の抵抗も微弱であったため、成功裏に飛行場を奪取した。以後、26機のC-17による空輸が行われ、4日間で旅団の残余2,200名、M119 105mm榴弾砲6門、車両400両以上、貨物3,000トンが輸送された。

その後4月7日より、旅団に配属されていた1/63機甲大隊を空輸するための機上のドラゴン作戦英語版が発動された。この作戦のもと、19日までの12日間で、新たに24機のC-17により、兵員300名と車両78両が空輸された。車両の内訳は、M1A1戦車(60トン)5両、M88A2戦車回収車(60トン)1両、M2A2歩兵戦闘車(27トン)5両、重PLS輸送車(25トン)1両、HEMTT重機動トラック(18トン)7両、M113A3装甲兵員輸送車(12トン)12両、FMTVトラック(9トン)4両、M997改造指揮車(4トン)2両、ハンヴィー汎用車(2.5トン)37両であった。

シリア内戦

2017年、アメリカ軍はISILが首都と位置付けるラッカへの攻勢を行うため、シリア北部の飛行場を拡張強化した上でC-17を投入。アメリカ海兵隊シリア民主軍に対して物資供給などの支援が行われた[11]

アメリカ軍のアフガニスタン撤退

キャビン一杯に乗り込んだ避難民

2021年ターリバーン攻勢 では、アメリカの想定以上の速さでターリバーンが首都カーブルを制圧。多くの避難民がターリバーンから逃れるためにカーブル国際空港に殺到した。この際、アメリカ軍は一部の避難民の国外輸送にC-17を使用したが、首都陥落直後の混乱で8月16日空港制限区域内に一般人が乱入し、誘導路や滑走路上を移動しているC-17機体側面にしがみつき離陸後に転落したり、着陸地で主脚格納装置に巻き込まれて死亡しているのが確認される事態が発生する[12] 一方、1機で600人以上の民間人を機内にスシ詰め状態にして運用せざるを得ない状況となった[13]


  1. ^ a b c d e 軍事研究2007年10月号「地球の裏へ急速空輸:C-5/C-17巨人機」
  2. ^ “ボーイング、軍用機「C17」生産を15年に打ち切り 加州工場閉鎖へ”. ウォール・ストリート・ジャーナル. (2013年9月18日). http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324353404579084751838868892.html 2013年10月8日閲覧。 
  3. ^ Trimble, Stephen. "Boeing offers C-17B as piecemeal upgrade." Archived 7 December 2017 at the Wayback Machine. Flight International, 19 August 2008.
  4. ^ "Air Force Lets Advanced STOL Prototype Work." Archived 7 November 2012 at the Wayback Machine. The Wall Street Journal, 13 November 1972.
  5. ^ Miles, Marvin. "McDonnell, Boeing to Compete for Lockheed C-130 Successor." Archived 7 November 2012 at the Wayback Machine. Los Angeles Times, 11 November 1972.
  6. ^ Kennedy, Betty R. Globemaster III: Acquiring the C-17. McConnell AFB, Kansas: Air Mobility Command Office of History, 2004.p3–20, 24
  7. ^ Norton, Bill. Boeing C-17 Globemaster III (Warbird Tech, Vol. 30). North Branch, Minnesota: Specialty Press, 2001. ISBN 1-58007-040-X.p12–13
  8. ^ Norton, Bill. Boeing C-17 Globemaster III (Warbird Tech, Vol. 30). North Branch, Minnesota: Specialty Press, 2001. ISBN 1-58007-040-X.p13、15
  9. ^ "Douglas Wins $3.4B Pact to Build C-17." Archived 7 November 2012 at the Wayback Machine. Los Angeles Times, 3 January 1986.
  10. ^ C-17 AIRCRAFT Cost and Performance Issues アメリカ会計検査院報告
  11. ^ 米軍、シリア北部の滑走路拡張 C17輸送機でラッカ奪還の支援強化 AFP(2017年4月5日)2017年4月5日閲覧
  12. ^ カブール離陸の米軍機から転落死 19歳のサッカー選手
  13. ^ 米軍機内にアフガン人600人超 劇的な退避作戦の写真公開”. AFP (2021年8月18日). 2021年8月18日閲覧。
  14. ^ RAF - C-17A Globemaster
  15. ^ 「月刊エアライン」2018年5月号p.121。
  16. ^ Air Force Warrior Sentinels: C-17 Globemaster
  17. ^ 次期輸送機 政策評価書 防衛省・自衛隊
  18. ^ Boeing Is Undisputed Leader In Providing Air Cargo Capacity
  19. ^ "C-17 Technical Specifications" The Boeing Company.
  20. ^ a b "CC-177 Globemaster III Overview" Royal Canadian Airforce.
  21. ^ C-17 Globemaster III” (英語). Air Force. United States Air Force. 2022年11月19日閲覧。


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