脚
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/05 04:19 UTC 版)
ヒトの脚
脚の各部位の名称としては脚末梢端には足が付属し、接地部足底から上に向かい、足、足首、脛(すね)、膝(ひざ)、腿(たい)までを含み「脚」と呼んでいる。便宜上、日本語で同じ音を持つ「足」という漢字を当て、踝(くるぶし)以下の接地部を指して区別のために使い分けて呼ぶ。脚と同じ部位を指して腿という表記を用いることもあり、腿と言う字自身は太腿(だいたい・ふともも)や脹脛(ふくらはぎ)を指すが、上腿(じょうたい)と書いて下肢の膝から上の太腿を、下腿(かたい)と書いて下肢の膝から先の脹脛を指す。
一般的に脚は身体全体の重さを直接的に引き受ける部位であり、全身中最も太い骨(大腿骨や脛骨など)と、瞬発力と持久力を兼ね備えた筋力を備える。脚の筋肉は骨格筋によって構成され、大きく大腿筋、下腿筋、足筋に分けられ、それらと骨を繋ぐ腱とで脚の動きを調節している(「人間の筋肉の一覧#下肢の筋」を参照)。
脚の長さや姿勢、肌の状態は、人間の容姿において重要な要素であり、主に女性について脚線美という表現も使われる。
脚は日常の動作だけでなく、舞踊やスポーツのパフォーマンスを左右する。格闘技において攻守ともに重要であり、蹴り技や足払いといった、脚を使うあるいは狙う攻撃方法がある。
なお、ヒトは二足歩行するため、前脚は腕や手と呼ばれて脚とは区別され、匍匐を除いて通常は歩行には用いられず、地面に着けない。日常生活において腕で体重を支えることはないため、腕の筋力は脚のそれには及ばない。飼い犬の「お手」など、他の生物の類似箇所を指して概念的に同様の呼び方をする場合があるが、生物によってその構成は大きく変化しており、前脚を腕と一概に呼ぶ事はできない。
脚の健康
脚、特にふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれ[2]、立位時に地球の重力に従って下方向へ体液が流動することに因って引き起こされる体液停滞浮腫を、脚の血管周辺の筋肉の運動によって上部へ押し返し再び循環系に戻している。押し返す行ないは脚を使った運動、歩行や走行などにより促進されるため、運動は全身の血の巡りを良くする効果が望める。
一方で脚から足にかけて血管が炎症や動脈硬化を起こすと、足の指など末端近くの血液循環が滞り、傷や細菌感染が治りにくくなり、壊死の拡大を防ぐため足・脚の切断が必要になるケースもある[3]。歩行機能を維持するためには踵を残せるかどうかがカギとなる[3]。
脚は体全体を支え日常的に頻繁に使われる部位であるため、体の中で最も頑丈にできている反面、筋力の消費するエネルギーが大きく、使用しない時の退化が激しい。そのため最も太く丈夫とされる大腿骨を折ってしまうと修復に時間がかかり、老人の場合そのまま寝たきり生活になってしまい、補助器具(後述)を使わずに立ち上がることができなくなってしまうことが多い。そのため日頃から昇降運動などで膝周辺の筋力を鍛えておく事は老後の健康にも有益である。
加えて言うなら腿部の消費エネルギーが大きいために運動効率もよく、糖尿病罹患者、高脂血症や高血圧の運動療法を行う人のみならずダイエットを志す人にも、脚を動かし鍛えることは広く推奨できる。
ヒトの脚の形状として内反膝、外反膝などがあり、それぞれ一般的にはO脚(おーきゃく)、X脚(えっくすきゃく)と呼ばれている。病的なものや遺伝の要素は少なく癖とも言える個人差の範囲だが、矯正し修正することもできる。内反膝や外反膝は脚のアンバランスな使用であるため将来変形性膝関節症等の膝の病気を引き起こす原因にもなり、気になるようなら専門家に相談することを勧める。
また乳幼児期に見られるそれらの多くは一過性のものであり、継続するようならビタミンDの摂取不足や日照時間が短い事から起こるくる病に罹っている場合がある。また同様の症状が大人になって突如起こることがあり、その場合は体位バランスの崩れもあるが、なんらかの原因で骨軟化症を引き起こしていることが多い。矯正中や骨軟化症の罹患時に胡坐や正座などは悪化させることがあるため、椅子中心の生活に変えた方が良いときがある。日本人には内反膝が、特に女性に多いとされる。
また脚には手と同様に利きがあり、反対側よりも筋力、長さ等が発達していることが多く、左右の不均等が全身の歪みを引き起こすとも言われている。この脚の利きの違いが、見通しがきかない森林などで遭難する原因の一つであるリングワンダリングを引き起こすと言われている。また下半身骨格の歪みが利き足同様の症状を引き起こすことがあるが、その場合は脚のみの利きよりも症状がハッキリと出る。
脚に何らか症状を引き起こす負傷や病気は、加齢のほか運動や事故によることが多く、以下が挙げられる。
- 骨折のほか、足の指の突き指は時として骨折や腱断裂を引き起こしていることがある。また普段使われている場所なため使われない時の衰退は早く、運動不足が骨折(疲労骨折)を招くこともある。
- 足首や膝に起こりやすい捻挫や脱臼は運動障害を伴った傷害であり、靭帯断裂等を伴い起き易く習慣化し易い症状であるため観察には注意が必要である。
- 筋肉痛、肉離れ、筋断裂などは、激しい動きに伴う筋肉の症状として一般的に起こり得る病気として挙げられる。
- 脚は細かい動きや大胆な動きを体重を支えながら行うために腱を傷めることも多く、腱に沿った痛みを伴う腱鞘炎、力を入れても全く動かなくなる腱断裂、運動時に起こりやすい捻挫など。
- 関節の炎症の総称である関節炎には、老化と共に現れやすくなる変形性関節症、女性に多いリウマチ、痛風罹患に伴う炎症などは膝関節や足の指にできやすい。また膝の靭帯は損傷報告が多く、運動不足の状態で十分なストレッチを行う事なく膝に負担がかかる運動をすることで靭帯断裂等を引き起こしやすくなる。
- 日常的に立ち行動が多いヒトには脚部に浮腫が生じ易い。脚の筋肉を動かす事で血液循環を促進し浮腫の解消に一役かう事が出来る。
- 浮腫の放置、反復により下肢静脈瘤に進展する事があり、予防を目的としたストッキングやソックス、靴を用いる事で進行を遅らせたり症状を緩和させる事が出来る。
- 他に足に何らかの症状を及ぼす病気としては、脚気(かっけ)、痛風、ケーラー病、レイノー病、オスグッド・シュラッター病、ビュルガー病、フィラリア症等がある。
足病学
このように脚から足にかけて生じる疾患や負傷、加齢などに伴う機能低下は多様であり、深刻化するとクオリティ・オブ・ライフ(QOL)や健康寿命を低下させるリスクが大きい。このため欧米では足病学、足病医の長い歴史があり、日本でも2019年、日本フットケア学会と日本下肢救済・足病学会が合併して日本フットケア・足病医学会が発足した[3]。足病医療では複数の診療科(形成外科、循環器科、血管外科など)が連携して診断と治療に当たることが理想形であり、必要ならリハビリテーションや義足の製作もとりいれる[3]。
脚具
ヒトは脚の保護や衛生、外見の装飾等の目的として外衣や下着を履く。日本古来では袴、着物のような上下一貫の一枚布等を着衣していた。今日ではズボン、スラックス、パンツ、ショーツ(パンティー)、スパッツ、スカート、アンダーパンツ、股引(モモヒキ)、猿股、脚半、タイツ、ストッキング等をそれ自身の締め付けや、ベルト・腰紐のような補助道具を用い着衣する。
上記は足(接地部)にのみ備えるものは除外しているが、ニーソックスやブーツ、長靴のように足から脚の途中までを一体で覆うものもあり、胴付き長靴(胴長)に至っては上半身の胴に達する。
脚を失ったり、脚での起立・歩行が難しくなった人は、杖や松葉杖、車椅子、義足を用いる。
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