挿し木 発根促進

挿し木

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 13:49 UTC 版)

発根促進

さし穂の状態

一般に幼齢の植物を挿し穂として用いたほうが発根率が良いとされ、発根が難しいとされている植物でも実生苗や一度組織培養して生み出した苗木を親として用いると発根しやすくなるという報告が多い[4][5]

さし穂の冬芽に関しては残しておく方が発根率が良いものと、逆に除去したほうが発根率が良いものの2種類があるという[6][7]。挿し穂に含まれる節の数や切り口から節までの距離も発根率に影響があるという[8]

光環境

挿し穂を採取する前の光環境も重要であることがしばしば言われれている[9]。母樹の中で将来挿し穂となる部分に布を巻くなどしてあらかじめ遮光しておくモヤシのような育て方をした後、切り取って挿し穂にすると発根率が上昇するという報告があり、黄化処理などと呼ばれる。挿し穂を黄化処理をすることにより、挿し木困難な樹種や系統であっても発根することは、しばしば報告されている[10][11][12]

温度処理

挿し穂の発根に至る適温は植物によって異なる。挿し穂を保存する場合は低温にした方がいいという。

気温とは別に地温が発根率に大きく影響し、必要に応じて加温すると発根率が上昇するというのは昔からしばしば指摘されている[13][14]。長期間の処理でなくても切り口付近だけ1日の加温処理でも十分効果があるという[15][16]

二酸化炭素濃度なども発根率に影響を与えるという[17]

花芽処理

挿し木を行った直後、花芽がついたり花を咲かせてしまったりすることがある。この場合、一部の植物を除き一般には速やかに花芽を切り取る処理をする。花芽を付けたままにすると花を咲かせることに力を優先してしまうため、発根しづらくなる。根が出ていないのに花を咲かせる現象はパンジー(ビオラ)など挿し穂自体は丈夫だが、発根に時間がかかる植物でよく見られる現象で、日々観察して花芽が付いたらこれを切り取るのが望ましい。一方、一部には花芽がつこうが開花しようが簡単に発根する植物もあり、こうしたものではあまり神経質になる必要はない。

薬剤

発根を促進させる薬剤としては下に挙げるようなものが知られる。

  • オキシベロン(インドール酪酸)
  • ホルモナイト Hormo-Knight (糖原生アミノ酸 Glucogenic amino acid, インドール酢酸誘導体、インドール酪酸誘導体)※主に接ぎ木の際に使用する薬剤だが挿し木でも有効
  • ルートン(α-ナフチルアセトアミド)※食用作物には使用しないようにといった旨が取扱説明書にあり、メーカーが自ら注意喚起している。
  • メネデール(二価鉄イオン化合物)

これらの薬剤は単に発根を促進する効果のほか、挿し穂の切り口に膜を張って保護し、腐りにくくするなどの効果もあり、特に挿し木の難易度が高い植物では相応の効果が期待できる。

管挿しの場合、上部も切り取られている挿し穂を使うが、この場合は上部の切断面にトップジンMなどの薬剤を使用することで、切断面からの水分の蒸散や切り口の腐敗などを抑える効果を得られる。

挿し穂の下部(地面に挿す部分)は、水平ではなく斜めにカットするかV字型にカットする方が良いとされている。これは、挿し穂の切断面の断面積が大きくなるからである。根が無い挿し穂は切り花のように茎の切断面から水分などを吸い上げることになるが、断面積が大きくなることでより効率よく用土から水分を吸い上げることが可能となり、挿し木の成功率を高める効果を得られる。

用土

挿し木に使用する用土は、一般には肥料分を含まない用土を使用する。肥料分を含む用土を使用すると養分を補給できてしまうので、今のままで問題ないと植物が反応してしまった結果、発根の妨げになるとされている。ただし、発根後は相応の肥料分を与えてやる必要がある。

赤玉土小粒バーミキュライトパーライト鹿沼土やこれらを混合した土がよく使われる。また、挿し木種まき用培養土とされているものが市販されており、これを使うのも良い。


  1. ^ a b c d e f g h 森下義郎. “さし木の腐敗とその防止および回避”. 林業試験場研究報告 第165号. 2021年9月1日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g 境博成・君島利治 (2017) 古代ギリシャ、ローマおよび中国における果樹の挿木、取木、接木の実施とそれらの発祥に関する考察.ESD・環境教育研究19(1), p.9-21.
  3. ^ 挿し木で増やす身近なみどり”. 長野県. 2021年9月1日閲覧。
  4. ^ Yoshihisa NAKAZAWA, Yoshihiro TODA (1989) Production of Kunugi (Quercus acutissima CARRUTH) Plants for the Bed Log of Shiitake (Cortinellus shiitake P. HENN.) by in vitro Tissue Culture. Plant tissue culture letters (植物組織培養)6(1), p.28-30, doi:10.5511/plantbiotechnology1984.6.28
  5. ^ 石井克明・齋藤明 (1992) バイテク研究はどこまで進み, 何が期待できるか 林木の組織培養とその応用. 森林科学5,p.30-34. doi:10.11519/jjsk.5.0_30
  6. ^ 佐々木峰子・倉本哲嗣・平岡裕一郎・岡村政則・藤澤義武 (2006) クロマツのさし木発根性に及ぼす摘葉摘芽の影響. 日本林学会誌86(1), p.37-40. doi:10.11519/jjfs1953.86.1_37
  7. ^ 河合義隆・川上信二 (1999) ブドウの挿し木の発根における休眠芽の影響. 根の研究8(3). p.91-95, doi:10.3117/rootres.8.91
  8. ^ (日本語) 【令和3年度九州地域公開講演会】フクギを利用しやすくするための挿し木技術, https://www.youtube.com/watch?v=HSrtIMS6p7A 2021年12月22日閲覧。 
  9. ^ 中山仰 (1974) 茶など永年性木本植物のさし木発根と光. 茶業研究報告41, p.1-7. doi:10.5979/cha.1974.1
  10. ^ 是松博文・古谷博 (1983) 黄化処理による観賞樹の挿木繁殖に関する研究. 広島県立農業試験場報告46, p.71-87.
  11. ^ 讃井元・酒井慎介・加納照崇・中山仰 (1967) 茶樹黄化さし木の生理に関する研究(第1報)黄化処理が穂木ならびにさし木後の葉の諸性質に及ぼす影響. 茶業研究報告27, p.26-32. doi:10.5979/cha.1967.26
  12. ^ 菊地秀喜・川原田忠信 (1991) リンゴわい性台木M.27の黄化処理による挿木繁殖. 宮城県園芸試験場研究報告8, p.1-5.
  13. ^ 阿部正博・今井元政・島田一美 (1957) 電熱温床によるスギ老令樹さし木試験. 日本林学会誌39(6), p.245-248. doi:10.11519/jjfs1953.39.6_245
  14. ^ 武田英文 (1971) 伝熱温床による秋田スギさし木試験(会員研究発表講演). 日本林學會北海道支部講演集19, p99-102. doi:10.24494/jfshc.19.0_99
  15. ^ 寺倉涼子・渋谷俊夫・北宅善昭・清田信 (2004) キュウリ挿し穂の低温貯蔵中における短期間の供給培養液の加温処理が貯蔵中の品質および貯蔵後の発根に及ぼす影響. 生物環境調節42(4), p.331-337. doi:10.2525/ecb1963.42.331
  16. ^ 清水(丸雄)かほり・渋谷俊夫・徳田綾也子・瓦朋子・杉脇秀美 (2008) 低気温貯蔵中における短期間ボトムヒート処理によるナス接ぎ木挿し穂の発根促進. 園芸学研究7(1), p.23-26. doi:10.2503/hrj.7.23
  17. ^ 藤澤義武・植田守 (2013) 講座:林木育種の現場のABC(3)クローン苗の養成技術 ―さし木―. 森林遺伝育種2(2), p.62-66. doi:10.32135/fgtb.2.2_62
  18. ^ 鉄村琢哉・小柳慶朗・伊藤 早介・羽生剛・河瀬晃四郎 (2003) 挿し木繁殖したカキ樹の初期成長. 園芸学研究2(2), p.73-76. doi:10.2503/hrj.2.73
  19. ^ 宮下智弘 (2007) 多雪地帯に植栽されたスギ挿し木苗と実生苗の幼齢期における成育特性の比較. 日本森林学会誌89(6), p.369-373,doi:10.4005/jjfs.89.369


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