挿し木 挿し木の例

挿し木

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 13:49 UTC 版)

挿し木の例

挿し木によって繁殖させる植物の中で観賞用に栽培されるものの代表的なものとしてサツキドラセナなどが、食用の植物においてはサツマイモパイナップルバナナなどが挙げられる。

サツキやドラセナの例
サツキは個体ごとの花の模様の差異を鑑賞するものであるため、増殖にはクローン作成が欠かせない。ドラセナは種子からより格段に早く大きな鑑賞に適した株を生産できるのみならず、再生力が高いことから単に切断した幹を水に挿しておくだけで発芽する珍奇な様子が、観賞用として珍重されてもいる。
サツマイモ
サツマイモが本来の栄養繁殖器官であるを植えるのではなく、農業の現場で挿し木が用いられるのは、ひとつの種芋から生じる多数の蔓を切り取って挿し木することにより、効率的に多数の苗を確保できるからである。
パイナップル
パイナップルは本来ならば花が受粉すれば種子ができるが、種子ができなくても果実は成熟し、集合果の先端の冠芽を挿し木することで繁殖できる。ただし、経済栽培においては株の根元から出る芽を挿し木することが普通である。これによって優良品種のクローンを継続的に確保できるほか、種子繁殖よりはるかに短いサイクルで果実を収穫できる。
バナナ
バナナの栽培品種は倍数体で受精能力がなく、種子ができない。そのため、新石器時代以来の原産地で栽培化に成功した人間が、挿し木によって優良品種のクローンを維持して今日に伝えたものである。

実生苗との比較

挿し木苗は根を出し成長しても枝の性質を残しているということがしばしばいわれ、挿し木苗と実生苗を比較した場合、根系や成長の具合に差が出ることが幾つかの植物で報告されている[18][19]コリウスなどの例では実生苗と栄養苗では成長速度に特に顕著な差があり、栄養苗は短期間でより大きな株に育つ。このため、より大きな株にしたいなら栄養苗、あまり大きくしたくないなら実生苗という使い分けを苗の購入時にできる。

ガウラなどの冬季に地上部が枯れるタイプの宿根草の場合、通常は冬は挿し木を行わないが、室内管理などをすることであえてそれを行い、春に宿根株や実生苗が芽吹き始めるころには、すでに地上部がある程度まで育っているため、より早く大株にしたり早めに花を咲かせ始めたりすることが可能になる。これとは逆に、夏に地上部が枯れる宿根草もクーラーハウスなどを用意して通常は行わない夏の挿し木をすることにより、同様の効果を得ることができる。

パキラでは、実生苗と挿し木による栄養苗では外観からして明らかに性質に大きな差が出て、挿し木苗では幹元の肥大も無く、生長も極端に遅く花も咲かせなくなる。このようなことになる理由は植物学の専門家たちの間でさえ現在でも謎のままであるが、長年ほとんど成長しないこの性質はデスク横に置くグリーンインテリアなどには最適でもあり、重宝されている面もある。

土木工事への応用

荒廃した斜面を復旧する治山土留工事では、土留の杭などに挿し木による更新が可能なヤナギニセアカシアが使われることがある。これは、土留によって土砂の流出を防ぐとともに、挿し木による効果によって早期緑化を狙うものである。


  1. ^ a b c d e f g h 森下義郎. “さし木の腐敗とその防止および回避”. 林業試験場研究報告 第165号. 2021年9月1日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g 境博成・君島利治 (2017) 古代ギリシャ、ローマおよび中国における果樹の挿木、取木、接木の実施とそれらの発祥に関する考察.ESD・環境教育研究19(1), p.9-21.
  3. ^ 挿し木で増やす身近なみどり”. 長野県. 2021年9月1日閲覧。
  4. ^ Yoshihisa NAKAZAWA, Yoshihiro TODA (1989) Production of Kunugi (Quercus acutissima CARRUTH) Plants for the Bed Log of Shiitake (Cortinellus shiitake P. HENN.) by in vitro Tissue Culture. Plant tissue culture letters (植物組織培養)6(1), p.28-30, doi:10.5511/plantbiotechnology1984.6.28
  5. ^ 石井克明・齋藤明 (1992) バイテク研究はどこまで進み, 何が期待できるか 林木の組織培養とその応用. 森林科学5,p.30-34. doi:10.11519/jjsk.5.0_30
  6. ^ 佐々木峰子・倉本哲嗣・平岡裕一郎・岡村政則・藤澤義武 (2006) クロマツのさし木発根性に及ぼす摘葉摘芽の影響. 日本林学会誌86(1), p.37-40. doi:10.11519/jjfs1953.86.1_37
  7. ^ 河合義隆・川上信二 (1999) ブドウの挿し木の発根における休眠芽の影響. 根の研究8(3). p.91-95, doi:10.3117/rootres.8.91
  8. ^ (日本語) 【令和3年度九州地域公開講演会】フクギを利用しやすくするための挿し木技術, https://www.youtube.com/watch?v=HSrtIMS6p7A 2021年12月22日閲覧。 
  9. ^ 中山仰 (1974) 茶など永年性木本植物のさし木発根と光. 茶業研究報告41, p.1-7. doi:10.5979/cha.1974.1
  10. ^ 是松博文・古谷博 (1983) 黄化処理による観賞樹の挿木繁殖に関する研究. 広島県立農業試験場報告46, p.71-87.
  11. ^ 讃井元・酒井慎介・加納照崇・中山仰 (1967) 茶樹黄化さし木の生理に関する研究(第1報)黄化処理が穂木ならびにさし木後の葉の諸性質に及ぼす影響. 茶業研究報告27, p.26-32. doi:10.5979/cha.1967.26
  12. ^ 菊地秀喜・川原田忠信 (1991) リンゴわい性台木M.27の黄化処理による挿木繁殖. 宮城県園芸試験場研究報告8, p.1-5.
  13. ^ 阿部正博・今井元政・島田一美 (1957) 電熱温床によるスギ老令樹さし木試験. 日本林学会誌39(6), p.245-248. doi:10.11519/jjfs1953.39.6_245
  14. ^ 武田英文 (1971) 伝熱温床による秋田スギさし木試験(会員研究発表講演). 日本林學會北海道支部講演集19, p99-102. doi:10.24494/jfshc.19.0_99
  15. ^ 寺倉涼子・渋谷俊夫・北宅善昭・清田信 (2004) キュウリ挿し穂の低温貯蔵中における短期間の供給培養液の加温処理が貯蔵中の品質および貯蔵後の発根に及ぼす影響. 生物環境調節42(4), p.331-337. doi:10.2525/ecb1963.42.331
  16. ^ 清水(丸雄)かほり・渋谷俊夫・徳田綾也子・瓦朋子・杉脇秀美 (2008) 低気温貯蔵中における短期間ボトムヒート処理によるナス接ぎ木挿し穂の発根促進. 園芸学研究7(1), p.23-26. doi:10.2503/hrj.7.23
  17. ^ 藤澤義武・植田守 (2013) 講座:林木育種の現場のABC(3)クローン苗の養成技術 ―さし木―. 森林遺伝育種2(2), p.62-66. doi:10.32135/fgtb.2.2_62
  18. ^ 鉄村琢哉・小柳慶朗・伊藤 早介・羽生剛・河瀬晃四郎 (2003) 挿し木繁殖したカキ樹の初期成長. 園芸学研究2(2), p.73-76. doi:10.2503/hrj.2.73
  19. ^ 宮下智弘 (2007) 多雪地帯に植栽されたスギ挿し木苗と実生苗の幼齢期における成育特性の比較. 日本森林学会誌89(6), p.369-373,doi:10.4005/jjfs.89.369


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