夏子の冒険 登場人物

夏子の冒険

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/18 06:46 UTC 版)

登場人物

松浦夏子
20歳。南方系の顔で、目が潤み漆黒の髪。情熱的な性格で、一旦言い出したら決心がゆるがない。両親と祖母、伯母と東京に居住。キリスト教系の学校を卒業。何人もの若者に結婚を申込まれる。祖父は紀州の大きな材木商だった。
井田毅
暗い、どす黒い、森の獣のような光を帯びた美しい目。軍国主義的な校風のQ大学を卒業。山岳部剣道部員だった。一昨年の春に脳溢血で死んだ父は倉庫会社を経営する実業家で猟友会員だった。毅も狩猟免許を持ち、ミットランド銃を所持。亡き父の倉庫会社で働き、東京に居住。兄は戦死。
松浦光子
45歳。夏子の母。娘の友人たちからは、「趣味のよいおばさま」で通っている。松浦一家の女性の中では比較的冷静な性格。
松浦かよ
67歳。夏子の祖母。光子の姑。いびきをかく。編物の編み目をよく間違え左右ちぐはくな靴下になる。南京豆が噛めない。リチャード・バーセルメスのファンだった。熱情的な趣味気質。夏子の気質は祖母と似ている。
近藤逸子
55歳。夏子の伯母。光子の義姉。涙もろくてすぐ泣く。万事ことなかれ主義。たいして大きくもないビスケットを四つに割り、お上品に食べる。
夏子の父
かよの息子。謹厳な実業家で、カトリック信者。落着いている重厚な声。
建築科の大学生。笑うと黒い頬に笑窪ができる単純な気持のよい青年。口笛と吹いたり、指をポキポキ鳴らす癖。夏子と一緒に将来住む家の模型を作ってプレゼントするが、夏子に振られる。他にも、パルプ会社に勤める辰雄、大学の法学部の助手の雞一らが夏子に振られる。
研一
製薬会社社長の息子。迫った眉と大きな手。親の車を自慢げに乗っている。送り狼になろうとしたが、夏子に軽くいなされてあっさり諦め、夏子に振られる。その他、画描きや文学青年、音楽家やサラリーマンも夏子に振られる。
夏子の友人たち
上野駅で夏子を見送る。車窓に花やお菓子を投げ込む女子。男子は、誰も手を触れた者がないうちに売約済になってしまったピカピカの舶来空気銃を、硝子窓に鼻を押しつけて見ている悪童のような一心な目つきで夏子の姿を眺める。
大牛田十蔵
アイヌ人の木こり製紙会社の下働きで、林の木を伐採している。髭の濃い精悍そうな顔。青みがかった目で落ち窪んだ眼窩。3人の娘がいたが、一昨年の秋に次女・秋子を四本指の熊に殺されて亡くす。アイヌ部落・蘭越に居住。
大牛田秋子
十蔵に次女として育てられた娘。16歳だった一昨年の秋に毅と出会う。おかっぱ頭栗鼠のような白い歯。白くなよやかな手足の美しい少女。口数の少ない、甘ったれた話ぶりの声。本当の両親は和人で、実母は華族らしい東京の貴婦人。貴婦人は、札幌の金持の一人息子と恋仲となり、月に一度会いに来ていたが、男が破産し、1歳だった娘・秋子を十蔵に預け、男と心中した。
大牛田信子
十蔵の長女。一昨年の秋は19歳。大柄な娘。村役場に手伝いに行っている。字が下手。
大牛田松子
十蔵の三女。一昨年の秋は12歳。14歳になり東京の少女歌劇を見たがる。
大牛田十蔵の妻
信子と松子の実母。札幌に少女歌劇団が来ても、娘たちに見に行かせない。
野口
毅の学生時代の友人。札幌タイムスの新聞記者。小肥りした、ゆかいそうな青年で甲高い声。若禿の額。石川啄木好き。夏子に片思いする。北大前のアパートで1人暮らし。
毅の上司
倉庫会社の部長。北海道に行く毅に規定外の長期休暇をくれる。
温泉旅館の客
函館郊外の旅館の浴客。風呂で夏子の体を洗う光子とかよと逸子たちの大袈裟な会話に笑い出し、睨まれる。
森山幸一
白老駅ちかくのW牧場の主。禿げた頭。胃弱らしい体格。妻と三人のにぎやかな子供がいる。子供らは毅の贈物のチョコレートに有頂天になる。1番下の3歳児は母のおっぱいの味を忘れかねている様子。
森山の妻
都会育ちの美しい奥さん。豊かな胸。旦那の意見に合わせ、いちいち声を立てて笑う。夏子の美しさに讃嘆と反感がまざり合った気持を持つ。
W牧場の牧夫たち
村田銃を背負い、声を合わせて低い声で松前追分を歌う。
成瀬
札幌タイムスの編集長。ズボンのお腹が機雷のようにふくれている。ビール好き。大食漢。
不二子
16、7歳に見えるが、体は20歳の成熟した娘。眉毛がやや濃く、目は深潭のように美しい。お下げ髪。世話女房のように毅の世話をする。小柄でいながらすくすくと育った体。何かきらきらした妖精じみた単純な目。森の動物のようにすばしこい孤独な感じがあるが、手も足も夢のような動きで少しも渋滞がない。
白老のY牧場主
やもめの変り者。応接間にドイツ哲学の本や浄瑠璃全集が置いてある。戦時中に政治家になろうとして失敗。剛腹で二十の巨体。夏子を見る目付きが怪しい。
不二子の父
Y牧場の老牧夫。厩舎の番人。カウボーイ囲碁が趣味。
千歳駅周辺の売春婦
おもに千歳基地の米兵相手の売春婦。子供の書いた絵のような鮮明な化粧。派手なネッカチーフジャケット。毅を見て口笛を吹きからかう。
本多菊造
29歳。木こりの青年。無口で口下手。千歳川の流域に居住。五足らずの身長だが腕力はあり、徴兵検査の時には十数回も米俵を頭上高く持ち上げたほどの体力。四本指の熊に襲われ頬を切られ、振り回されて重傷を負う。
黒川
札幌の猟友会支部長。56、7歳。歯科医師で自宅の洋館で歯科医院を営む。子供が付髭を生やしたような、ほっぺたの赤い小男。柔和な目。貫禄がない代りに、遊んでいるときの子供のように精力的にみえる。挨拶で頭を下げながら、自分の上着の内側に御飯粒が一つ付いているのを見つけて取る。
アイヌ部落・コタナイの村長
蘭越近くのアイヌ人村長。肺病の老人。痩せ衰え、紙のように白い顔色。落ち窪んだ目。白い髭に覆われた口。若い頃は狩りをし、野山を馳せる獣のように精悍だった。
コタナイの村長夫人
アイヌ人。60代。顔に、口が耳まで裂けているような刺青をしている。肌の色が土気色で死人のよう。
コタナイ村の住人
見馴れない光子、かよ、逸子たちを珍しがり、夫人たちの後を一連隊のように付いて来る小さな男の子たち。赤ん坊を抱いて玄関前に立つおかみと、焼酎をチビリチビリやりながら見物する亭主。窓から見物する家族は、芝居の桟敷にいるよう。蓄音器を持っている家族は、なぜかこの時とばかりに赤城の子守唄浪花節のレコードをかける。たまたま帰省していた予備隊の息子から、有閑マダムの厚化粧婆より、おっかさんの方がよっぽど美人だと、真実味のあるお世辞を言われてうっとりするアッパッパを着た60代の母親。
コタナイの村長の二号
60歳近い、肥った小ぎれいな元芸妓。白いふくよかなきめのこまかい肌。秋田訛りがある。

  1. ^ a b c 木村康男「夏子の冒険」(旧事典 1976, p. 290)
  2. ^ 井上隆史「作品目録――昭和26年」(42巻 2005, pp. 395–397)
  3. ^ 千葉俊二「夏子の冒険」(事典 2000, pp. 265–266)
  4. ^ a b 山中剛史「著書目録――目次」(42巻 2005, pp. 540–561)
  5. ^ 山中剛史「映画化作品目録」(42巻 2005, pp. 875–888)
  6. ^ 久保田裕子「三島由紀夫翻訳書目」(事典 2000, pp. 695–729)
  7. ^ a b 「第I部 闘いと迷宮と――新しい〈村上春樹〉の発見 〈第二の文章〉太宰と三島という「二」の問題――『羊をめぐる冒険』と『夏子の冒険』」(佐藤幹 2006, pp. 80–84)
  8. ^ a b 高澤 2006高澤秀次吉本隆明 1945-2007』(インスクリプト、2007年9月)p.264。大澤 2008, p. 76
  9. ^ a b c d e f g 「II 虚構の時代――3理想から虚構へ、そしてさらに……」(大澤 2008, pp. 74–84)
  10. ^ a b c d e f g h i 千野帽子「熊をめぐる冒険――1951年の文藝ガーリッシュ」(夏子・文庫 2009, pp. 269–277)
  11. ^ a b 「作者の言葉(「夏子の冒険」)」(週刊朝日 1951年7月29日号)。27巻 2003, p. 445に所収
  12. ^ 松本鶴雄「三島由紀夫全作品解題」(『三島由紀夫必携』学燈社、1983年5月)。事典 2000, p. 266
  13. ^ a b 十返肇「青春の生き方」(『夏子の冒険』河出新書、1955年2月)。42巻 2005, p. 573
  14. ^ a b 「昭和27年――興行ベストテン〈日本映画〉」(80回史 2007, p. 62)
  15. ^ a b 「昭和27年――興行ベストテン〈日本映画〉」(85回史 2012, p. 96)
  16. ^ a b c 山中剛史「三島映画略説――雑誌、新聞記事から」(研究2 2006, pp. 39–43)
  17. ^ 登川直樹「色彩映画の実現『夏子の冒険』を中村登監督に訊く」(キネマ旬報 1952年9月上旬号)。研究2 2006, p. 39
  18. ^ 「天然色映画漸く本格化――進歩したフジコニカカラー」(東京新聞 1952年7月30日号)。研究2 2006, p. 39






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